アーティスト主導というユニークなアートフェア「ARTISTS’ FAIR KYOTO 2025|京都発アート・オブ・シンギュラリティ 既存の枠組みを超えたアートフェア」が京都で開催された。(2025年2月28日から3月2日まで)
2018年にスタートした「ARTISTS’ FAIR KYOTO」は、本年で8回目を数える。
今回も、「Singularity of Art(シンギュラリティ オブ アート)」をテーマに、京都芸術大学の椿昇 教授がディレクターを務めた。
ギャラリーが関与しない、アーティスト主導のアートフェア
本フェアは、すでに作家としての評価を確立しているアドバイザリーボードのアーティスト達と公募により選出された次世代のアーティストが参加。
選出された次世代のアーティスト達は、フェア会場で作品を発表するだけでなく、自らが来場者とコミュニケーションを取りながら販売まで行うという、新しいスタイルのアートフェアである。
マネジメントの視点も学ぶ、実験的なアートフェア
ARTISTS’ FAIR KYOTO (AFK) 開催当初からのアドバイザリーボードのメンバーである大庭大介氏(画家、京都芸術大学 大学院特任准教授)は、「ギャラリーが関与しないという点でも、ある意味、とても実験的なアートフェアである」と語る。
アーティストでもあり、また大学院生に向けて教鞭をとっている大庭氏は、「作品が売れるとはどういうことか、若いうちに、具体的に知った方がよい」という。
事実、卒業後、すぐに作品が売れる保証も、アーティストとして独り立ちできる保証もない。
また、アート業界は、作家、キュレーターや批評家だけではなく、コレクター、ギャラリスト、アドバイザーなど多様なプレイヤーが緩やかにつながり、一緒に作り上げていく世界だ。
そのようなアート業界で作家として生きていくうえで、「リアリスティックな視点や、マネジメントの視点を、若い時から AFK のような実践の場で試せることが、独り立ちするうえでも重要」と大庭氏。
アドバイザリーボードのメンバーは、アーティストであるとともに、美術大学で教鞭をとり学生の指導をしているメンバーが多い。ディレクターの椿氏もその一人だ。それゆえ、美術大学卒業後にアーティストとして生き抜く熾烈さを熟知しており、美術大学在学中に “厳しい”アートの現場を体感する機会を戦略的に提供する意義を理解し、実践の場としているのであろう。
大学のカリキュラムの一環として同年代のアーティスト達が作品を発表するだけの場とは異なり、アートフェアとして作品を売買する場であることは、売れた作品と売れなかった作品が可視化され、来場者からの作品への評価がダイレクトにつながるため、アーティストの卵にとってはかなりシビアな体験である。しかし熾烈なアート業界、アーティストとして“生き抜く”ためには、早いうちに実体験することも必要といえよう。
東福寺で現代アート、京都ならではの最先端を体感
アドバイザリーボードのアーティスト達も「アドバイザリーボード展」として展覧会を開催した。
会場は、京都五山の一つに数えられる名刹、臨済宗大本山 東福寺。
重森三玲の庭園に囲まれた方丈という東福寺の象徴的な空間を舞台に、ディレクターの椿昇をはじめ、アドバイザリーボードに名を連ねる名和晃平、加藤泉、大巻伸嗣、オサム・ジェームス・中川、大庭大介、薄久保香ら、国内外で活躍する15組のアーティストが参加し、ペインティングからテクノロジーを駆使したインスタレーションまで、多種多様な表現手法の作品が出品された。
アドバイザリーボードの推薦と公募により選出された可能性溢れる次世代アーティストは40組。
その内2組がアメリカからの参加で、国を越えた多彩なラインナップで新たな才能を発掘・発信することで、将来的にアートの新たな潮流を発信する国際的なハブとなることを目指す。
次世代アーティスト達のメイン会場は、京都国立博物館 明治古都館と京都新聞ビル 地下1階の2か所。
京都国立博物館では主に絵画(ペインティング)、京都新聞ビルでは、その他のインスタレーションが展示。
「ARTISTS’ FAIR KYOTO 2025」出品作品を対象に、特に優れた次世代アーティストを選出するアワード「マイナビ ART AWARD」の受賞も行われた。
アーティストは、次世代アーティストのどこに着目?
優秀賞を受賞した次世代アーティストの一人、寺澤季恵は、アドバイザリーボード薄久保香氏(東京藝術大学美術学部准教授)の推薦だ。
2020年多摩美術大学工芸学科を卒業した寺澤は、現在は金沢卯辰山工芸工房にてガラス作品を制作。「生命」をテーマに、彫刻やインスタレーションで表現する。
薄久保氏は寺澤のどこに着目して、推薦したのであろうか。
「寺澤の作品の繊細かつ有機的なガラスの粒子は、個々の異質性と集合的な存在のあり方を象徴するようであり、生命の起源や集合的記憶を想起させる装置のような役割を果たします。この視点は、アートフェアにおいて、単なる視覚的な美しさを超え、観る者に対して「個と全体」「人間と環境」の関係を再考させる機会になるような予感があった。」
続けて、薄久保氏は、
「寺澤の作品は、現代における「個の在り方」「異質性と共存」「生命の根源的な記憶」といったテーマを深く探求するものとして、フェアという場に強くてユニークな痕跡を残してくれると思った。」と期待を寄せた。
アートワールドの新たなエコシステムとして
国内外で活躍するアーティスト達が、次世代アーティストの育成から、将来のアートへの人材輩出をも見据えて、アーティストのシビアな眼も持ち合わせながら次世代の飛躍への「1つのきっかけ」となる場を提供しているARTISTS’ FAIR KYOTOだが、会場もユニークだ。
普段は非公開の重要文化財や印刷工場跡、京都を代表する寺院など、現代アートの展示空間では京都ならではの唯一無二の世界が広がる。そんな最先端を体感できるのもARTISTS’ FAIR KYOTOの特徴といえよう。
京都では、ギャラリー主体の「ART COLLABORATION KYOTO」などのアートフェアが開催されているが、世界的な文化都市において、多様なフェアがグラデーションのように展開され、京都ならではの新しい価値が発信されるアートワールドの新たなエコシステムが発展していくことが期待される。
OVERVIEW
ARTISTS’ FAIR KYOTO 2025