ART PEOPLE ART PEOPLE — Shao-yi Hou, Gallerist in Berlin 2025.03.03
Shao-yi with an artist, Neo Rauch in his studio, curtesy Shao-Yi Hou, Leipzig

ART PEOPLE

美術界では、作品を生み出すアーティストを中心に表舞台に立つものが華々しく脚光を浴びがちだが、彼らを支える関係者が、いわば縁の下の力持ちとして大勢サポートして参画し、成り立っている。
いわばアート界のエコシステムだ。

「ART PEOPLE」のセクションでは、アーティストのサポートや、展覧会やアートフェア開催のために活動するさまざまな関係者にフォーカスして、紹介する

Shao-yi Hou, Gallerist in Berlin

 Shao-yi は台湾出身で、英語、ドイツ語、中国語を駆使して、ギャラリーのセールス、アーティストのマネジメント、それらの戦略策定にも関わり、グローバルに活躍する才媛だ。

 Galerie EIGEN + ART(ギャラリー アイゲン+アート)には Carsten Nicolai(カールステン・ニコライ)をはじめとする世界的に活躍するアーティストが多数所属。美術館や顧客との折衝をはじめとするマネジメント業務を溌剌とやってのける Shao-yi に、ギャラリーの仕事やベルリンのアート事情について語ってもらった。

photo: Henning Bock, Berlin

As a trilingual gallerist

ART PRENIEW TOKYO (以下、APT):今回はなぜ東京に?

Sao-yi Hou(以下、SY) :2024年12月から開催の坂本龍一「seeing sound, hearing time」(東京都 現代美術館、2025年3月30日まで)に、カールステン・ニコライが出展するので、美術館との打ち合わせがありました。また、この機会に、中国、台湾、日本、韓国をまわり、美術関係者やコレクターなどとミーティングをしました。

APT:アジア横断の出張ですね。

SY  :台湾出身の私は、欧州人にはわかりにくいアジアと欧州の違いを理解したうえで、ミーティングができます。アジアでは、Art Basel Hong Kong(香港)、Frieze Soul(韓国、ソウル)、Tokyo Gendai(横浜)などに出展していますが、アートフェア会場では、なかなかゆっくり話せないですからね。

Shao-Yi at Galerie EIGEN + ART Pop up in Taipei (2021)

APT:ところで、ベルリンのギャラリーで働いて何年くらい?

SY  :7年以上です。

APT:どうしてベルリンで働こうと思ったの?

SY  :台湾の大学を卒業して、ベルリンの Humboldt Universität zu Berlin(フンボルト大学)で美術史と近代建築を学んだ後、Galerie EIGEN + ART(ギャラリー アイゲン+アート)に参画しました。
当時、ギャラリーにはアジア出身のスタッフがおらず、アジア人スタッフの第1号でした。

APT:アートもグローバル化しているなか、アジアでも中国や韓国のコレクターが台頭しているので、アジアのマーケットは重要ですね。ギャラリーでは、どのような業務を担当しているの?

SY  :私はギャラリーのシニア・ディレクターで、営業、アーティストとの連絡、戦略策定を担当しています。ギャラリーの重要な業務は、所属アーティストのキャリアを長期にわたって継続的にサポートすることです。多くのアーティストはプログラムの開始以来ギャラリーに所属しており、現在も私たちが代表しています。Carsten Nicolai (別名 alva noto)を筆頭に、Olaf Nicolai、Tim Eitel、David Schnell、Neo Rauch など、新しい世代のアーティストが所属しています。
現在、私は、ギャラリー所属のアーティスト達 Louisa Clement、Martin Gross、Carsten Nicolai、Li Qing のリエゾンも務めています。

APT:色々なプロジェクトも立ち上げているそうですね。

SY  :「Be Water」と「EIGEN + ART Plus」などです。
「Be Water」は、異文化間の対話の促進を目指してキュレーションをした、4人のアジア人アーティスト達の展覧会です。アジア人アーティストのみの展覧会は、ギャラリーで初めての試みでした。

「EIGEN + ART Plus」は、COVID-19 の課題に対応するために考案したもので、当ギャラリーのアーティストとギャラリーを特集した展示クリップ、オーディオインタビュー、ポッドキャストを紹介するプラットフォームです。現在、このプラットフォームを発展させて、世界中のアート愛好家にとって重要なリソースであり続けるように努めています。

Solo Exhibition “Facing the Light“ by Stefan Guggisberg at Galerie EIGEN + ART Berlin (2023)

The Art Scene in Berlin

APT:ベルリンにアートの旅をしたい読者も多いとおもうので、2025年のベルリンでお薦めの現代アートについてお聞かせください。

SY  :海外からの来訪者に5月の Gallery Weekend Berlin(ギャラリー ウィークエンド ベルリン)にベルリンに来ることを強く勧めています。これはベルリン最大のアート・イベントの1つで、世界中の美術館、キュレーター、コレクター、アーティストが集まります。
私たちのギャラリーでは、Gallery Weekend Berlin 2025(5月2日から4日)の時期に、ベルリンのスペースで Nicola Samorì(ニコラ・サモリ)の個展を開催し、同時にライプツィヒのスペースでも Neo Rauch(ネオ・ラウフ)の新作の個展を開催します。

APT:それは見応えがありそうですね。ベルリンには多くの現代アーティストがスタジオを構えていると聞いていますのでスタジオ・ビジットもできそうですね。

SY  :多くのギャラリーがこの時期に合わせて、とても良い展覧会を企画しています。開催時期も良い季節ですしね。

Gallery Weekend Berlin 2024 Installation view of territory with Mire Lee, Liu Yujia, Gala Porras-Kim, Tan Jing, Zhang Ruyu at Spruth Magers. Photo: Stefan Korte

APT:他にも、ベルリンの美術館やアート関連のスポットでお薦めはありますか?

SY  :ベルリンで個人的に好きな美術館は、Neunationale Galerie Hamburger Bahnhof(ハンブルガー・バーンホフ現代美術館)、Martin Gropius Bau(マルティン・グロピウス・バウ)、C/O Berlin(C/O ベルリン)そしてGemäldegalerie(絵画館)です。
ベルリンには素晴らしい個人コレクションもたくさんあります。例えば、Boros Sammlung(ボロス・ザムルング)は個人的には最高です。

APT:オラファー・エリアソンなどの所有で有名なベルリンのコレクター Christian Boros(クリスティアン・ボロス)氏のプライベート・ミュージアムですね。それは面白そうです。

Photo: Boros Collection, Berlin © NOSHE
He Xiangyu, Asian Boy, 2019-2020  Photo: Boros Collection, Berlin © NOSHE

APT:仕事で世界中を旅されていますが、印象に残った美術館やアート関連のスポットは?

SY  :毎年6月にArt Basel(スイス、バーゼル)に参加するときは、バーゼルの Fondation Beyeler(バイエラー財団)を訪れるのをとても楽しみにしています。アートと環境が調和して融合しており、Bruno Taut(ブルーノ・タウト)の Glashaus(グラスハウス)にいるような気分を想像できることがよくあります。

The Fondation Beyeler during Art Basel in June photo by ART PREVIEW TOKYO

SY  :はい。次のアートフェアは3月の Art Basel Hong Kongで、Birgit Brenner(ビルギット・ブレンナー)、Marc Desgrandchamps(マルク・デグランシャン)、Tim Eitel(ティム・アイテル)、Nicola Samorì(ニコラ・サモリ)、Ulrike Theusner(ウルリケ・テウスナー)、Kai Schiemenz(カイ・シーメンツ)、Li Qing(リー・チン)の最新作品をコレクターに紹介します。

9 月には、私たちのギャラリーでは、Carsten Nicolai(カールステン・ニコライ)と Stefan Guggisberg(シュテファン・グギスベルク)の作品を伴って、Tokyo Gendai(横浜)に出展する予定です。

APT:それは楽しみです。

 昨年2024年は、ギャラリーを代表するアーティストの一人、Carsten Nicolai(ミュージシャンの名称は、Alva Noto)の東京でのライブ・パフォーマンス(7月)や展覧会(12月)への参加があったこともあり、複数回東京を訪れた Shao-yi。

 滞在時もアーティストのマネジメント、美術館との折衝、顧客との交渉など多忙を極めている Shao-yi だが、いつも明るく、無駄のない有能な実務ぶり。二人とも建築を学んでいるという共通のバックグランドもあってか、Carstenとのコミュニケーションも楽しそうに、そして理解し合っていると見える様子がとても印象的だった。

 Effortless-肩に力が入っていなくて、リラックスしている、そして誰とでも気持ちよく仕事ができるように進めていく。そんな彼女の人柄に、グローバルに活躍するギャラリストの一面を見たと思った。(APT)

CONTEMPORARY ART POWER from Tokyo