ARTIST Aya KAWATO “Controlled/ Uncontrolled” 2024.09.25
2024「綴るみなも」イムラアートギャラリー(京都) Photo: Takuya Oshima (Northern Studio)
2022「川人綾:斜めの領域」京都市京セラ美術館 ザ・トライアングル(京都) Photo: Fumitaka Miyoshi
2022「川人綾:斜めの領域」京都市京セラ美術館 ザ・トライアングル(京都) Photo: Fumitaka Miyoshi
「CUO: C/U/O_md-md_(w)_I」2022, Acrylic on wooden panel, 150 x 150cm Photo: Takuya Oshima (Northern Studio)
「CUO: C/U/O_md-md_(w)_I」2022, Acrylic on wooden panel, 150 x 150cm Photo: Takuya Oshima (Northern Studio)

 川人は(手仕事から生じる制御できない)「ズレ」に美を見出す。

「Oriai / 織合い」2017, Acrylic on wooden panel, 250 x 200cm
Photo: Fumihito Nagai © COMITÉ COLBERT, Tokyo University of the Arts
「Oriai / 織合い」2017, Acrylic on wooden panel, 250 x 200cm Photo: Fumihito Nagai © COMITÉ COLBERT, Tokyo University of the Arts
「Oriai / 織合い」2017, Acrylic on wooden panel, 250 x 200cm
Photo: Fumihito Nagai © COMITÉ COLBERT, Tokyo University of the Arts
「Oriai / 織合い」2017, Acrylic on wooden panel, 250 x 200cm Photo: Fumihito Nagai © COMITÉ COLBERT, Tokyo University of the Arts

Ori(織り)のプロトタイプ誕生
 大学院時代の制作研究の集大成は、「織合い」(2017年COMITÉ COLBERTと東京藝術大学との共催で行われたプロジェクト「2074、夢の世界」展にて、優秀作品として選出。その後、FIAC(パリで開催されたアート・フェア)で展示)と、「制御とズレ ―大島紬における「制御とズレ」の構造研究を通して―」(2018年の東京藝術大学大学院博士課程の卒業制作作品)の2作品。

 川人の織りと錯視効果から成る「制御とズレ」のプロトタイプの誕生である。

2018「東京藝術大学大学院美術研究科博士審査展」東京藝術大学大学美術館(東京)
Photo: Teppei Kono
2018「東京藝術大学大学院美術研究科博士審査展」東京藝術大学大学美術館(東京) Photo: Teppei Kono

織(Ori)からScopicへ
 「織(Ori)Scopic」展(imura art gallery(京都)2021年)では、水平と垂直のグリッドに斜め45度のグリッドを重ね合わせた作品を発表。

 絵画を展示するだけではなく、壁面やファサードのガラス面にもグリッドペインティングを施した。この展示方法は、前年2020年にFacebookの東京オフィスに設置した作品がもとになっている。

2021「織(Ori) Scopic」イムラアートギャラリー(京都)
Photo: Akihito Yoshida
2021「織(Ori) Scopic」イムラアートギャラリー(京都) Photo: Akihito Yoshida
2021「織(Ori) Scopic」イムラアートギャラリー(京都)
Photo: Akihito Yoshida
2021「織(Ori) Scopic」イムラアートギャラリー(京都) Photo: Akihito Yoshida

(注)Scopic:遠距離、中距離、近距離から見ることで作品が移り変わり、角度によっても変化するイメージ

2022「川人綾:斜めの領域」京都市京セラ美術館 ザ・トライアングル(京都)
Photo: Fumitaka Miyoshi
2022「川人綾:斜めの領域」京都市京セラ美術館 ザ・トライアングル(京都) Photo: Fumitaka Miyoshi
2022「川人綾:斜めの領域」京都市京セラ美術館 ザ・トライアングル(京都)
Photo: Takuya Oshima (Northern Studio)
2022「川人綾:斜めの領域」京都市京セラ美術館 ザ・トライアングル(京都) Photo: Takuya Oshima (Northern Studio)
2023「project N 89 川人綾」東京オペラシティ アートギャラリー(東京)
Photo: Nobutada Omote
2023「project N 89 川人綾」東京オペラシティ アートギャラリー(東京) Photo: Nobutada Omote

 全体としてはデジタリスティックだけれども、遠くから見ると同化して、近くで見るとズレがはっきり見える。

 川人は、「見る距離や角度によって、見る側の意識の持ちようによって、そのつど、ズレや揺らぎと豊かな多義性をもって立ち現れてくる。(川人は、)体験の豊かさを他者と共有すること」(東京オペラシティー アートギャラリー 「川人綾 絵画的想像力と「没入感」」)を願ってやまないと語る。

2023「project N 89 川人綾」東京オペラシティ アートギャラリー(東京)
Photo: Nobutada Omote
2023「project N 89 川人綾」東京オペラシティ アートギャラリー(東京) Photo: Nobutada Omote

 これまでのOp Artの作品が一義的で強い視覚的効果を見る者に一方的に伝達していたのに対し、錯視効果によるズレや揺らぎを体感できるなど、すでに一線を画していた川人の作品は、建築的なインスタレーションへの広がりにより、その鑑賞体験を新たな領域へと拡げていったといえる。

ゆらぎの新たな可能性とは

2024「綴るみなも」イムラアートギャラリー(京都)
Photo: Takuya Oshima (Northern Studio)
2024「綴るみなも」イムラアートギャラリー(京都) Photo: Takuya Oshima (Northern Studio)

 2025年開催の大阪・関西万博の迎賓館に向け、川島織物セルコンによる綴織タピストリーのデザインと制作監修を現在行っている川人。その綴織の豊かな色彩からインスピレーションを受け、2024年に、グリッド・ペインティング「綴るみなも」(imura art gallery 2024年)を発表。

「CUT: C/U/T_dcccv-dcccv_(w)_I」2024, Acrylic on wooden panel, 80.5 x 80.5cm
Photo: Takuya Oshima (Northern Studio)
「CUT: C/U/T_dcccv-dcccv_(w)_I」2024, Acrylic on wooden panel, 80.5 x 80.5cm Photo: Takuya Oshima (Northern Studio)

 錯視効果を狙ったグラデーションの配列の考案に3か月以上費やしたという新作は、長方形のブロック単位のグリッドに1800色もの膨大な色彩を配した意欲的な作品だ。ビビッドな色彩が連なりグラデーションとなって現れるゆらぎと、立体感により生じるゆらぎが重なり合って、「みなも」のような、ゆったりとした、たおやかなイリュージョンがあらわれる。

Eye from ART PREVIEW TOKYO
 川人のグリッド・ペインティングが生まれた過程が興味深い。
「グラフィックデザインの経験をしてみると、本当に細かい表現をmacやイラストレーターで追求できてしまうことが面白くないように思えてしまいました。逆に、できる限り制御したうえで生じてしまう染織の滲みや歪みに、本当は惹かれていたのだということに気づかされたんです。
ただ、なんとなく染織をそのまま続けるのは違う、自分には自由が足りないという気がしていたので、東京藝大の先端芸術表現科の修士課程に入って試行錯誤し、博士課程の途中でグリッドペインティングを描き始めました。布を制作するよりもこの手法で見せるほうが、自分が染織から感じている美しさをシンプルに伝えられるのではないかと思って、絵画という手法を選ぶようになりました。」(美術手帖「絣から感じるズレの美しさを、視覚を惑わすグリッドペインティングに表現。川人綾インタビュー」
 批判的で無機質な作品が多いように思われるグリッド・ペインティング。グリッドの「制御」に揺らぎを加えた川人のグリッドには、包み込むような、やわらかさが溢れている。その「ズレやゆらぎ」がもたらす自由。その効果として、鑑賞者の心が自然と開かれていく。 「体験の豊かさを他者と共有すること」川人が作品に込めた思いが、伝搬していくことを願ってやまない。

ARTIST Info 
川人 綾
1988年 奈良県生まれ 京都府在住
2019年 東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現博士後期課程修了
主な展覧会
● 2024年 「綴るみなも」イムラアートギャラリー(京都)
● 2023年 「project N 89 川人綾」東京オペラシティアートギャラリー(東京)
● 2022年 「川人綾:斜めの領域」京都市京セラ美術館ザ・トライアングル(京都)
● 2020年 「Tell Me What You See」Pierre-Yves Caër Gallery(パリ、フランス)
OVERVIEW | Aya Kawato   | imura art gallery

 

CONTEMPORARY ART POWER from Tokyo