映像を中心としたインスタレーションにより、国内外で評価の高い現代美術作家 石田尚志。
石田の映像作品は、「Drawing Animation(ドローイング・アニメーション)」という、1コマずつ線を描いて撮影するという、独自の手法を用いて制作される。空間のなかに増殖する線や移動する点といった運動性を介入させ、空間の質をさまざまに変容させながら、「Moving Picture(動く絵)」を創り上げていく。
ART PREVIEW TOKYOでは、近年の石田のMoving Pictureの代表作と共に、2024年 神奈川県立近代美術館 葉山で開催された大規模個展時に、葉山の海を臨む展示室にて公開制作により作られた新作を紹介。石田の思考の軌跡を追う。
石田作品の魅力
石田尚志の映像作品の魅力は何か。三本松倫代氏(神奈川県立近代美術館学芸員)は、「石田尚志の作品が多くのひとを魅了するのは、とりわけ映像を用いた作品において、作家が(長い時間をかけて)私たちの眼前にあらわしめたイメージが次の瞬間にはそこになく、動きのなかで次々に線と色が立ちあらわれて反転する、そのスピード感と変化の感触、そして制作の仕組みを知る者には驚異的な時間の蓄積の感覚による。」と評する。「動くもの、光るものを目で追うのは楽しいという、人間の本性に近いところで鑑賞者は作品に感応する。「ここで何が起きているのか/ ここからどうなるのか」という好奇心がこれに加わる。」(三本松倫代『石田尚志 絵と窓の間』 2024年)のである。
三本松氏の指摘するように、石田の映像作品は、見た瞬間からすぐに直観に響く何かがあるように思う。特に、《フーガの技法》2001年 をはじめて鑑賞したときの衝撃は忘れられない。これまで海外の作家からも日本の作家からも感じたことのない感覚、イメージがいまだに脳裏に残る。
Ⅰ 近年の石田の代表作 《絵と窓の間》2018年
2018年にタカ・イシイギャラリー(東京)での個展で発表され、その後映像の構成要素を増減させながら青森(2019)、金沢(2021)、葉山(2024)でも展示された。石田が室内空間への描画と定点撮影に時間をかけて、意欲的に取り組んだ作品。
Ⅱ 絵画を思うようなインスタレーション 《弧上の光》2019年
国際芸術センター青森(ACAC)での滞在制作。壁面全体が弧を描くスタジオ兼展示室で、ACACの窓からの外光による室内の変容をカンヴァスに描き続け、その定点撮影映像を同寸のカンヴァスに投影した、絵画を思うようなインスタレーション。
青森では、何よりも絵を描きたいという思いを抱いた、という石田。
「絵の具の重なりや描かれる時間についてもっと考えてみたかった。・・・丁度ボナールの絵と映像との関係について深く考えるきっかけもあって、色について考えなければと思った。」(石田尚志『弧上の光』2020年)
Ⅲ 映像と立体を組み合わせたインスタレーション《庭の外》2022年
MDF合板を糸鋸で即興的に切り抜いた無数の樹形の造形物。それらが集散する光景が、2種の映像と立体で構成されたインスタレーション。
「本来屋外にあるべき一つの木が、不意に室内に生成する、生成させてしまうという衝動がもたらしたもの」と石田は語っている。(タカ・イシイ ギャラリー 「庭の外」石田尚志(作家メモより))
Ⅳ 葉山の海を臨む公開制作 2024年
これまで青森や金沢などの国内だけでなく、海外でも滞在制作をしてきた石田。
2024年は、葉山の海を背景に、美術館(神奈川県立近代美術館 葉山)でサイト・スペシフィックな新作の公開制作を実施した。
御用邸からも近く、一色海岸を臨む、外光を採り入れた展示室で、天井高6mの空間に青一色で描かれるイメージは、昼夜定点撮影され、石田によって未来の作品の素材となるのであろうか。
「海を見るとき、不意にそれが一つの壁のように感じることがある」(堂島ビエンナーレ2013カタログ)という石田。2024年の葉山の海を背景とした、この公開制作の新作を経て、絵画と映像により、もしくは新技法を用いて、今後どのように室内空間と屋外との関係性を展開していくだろうか。着目したいポイントだ。
ARTIST Info
Takashi ISHIDA
1972年東京都生まれ 多摩美術大学教授
主な展覧会
●「石田尚志 絵と窓の間」神奈川県立近代美術館 葉山(神奈川 葉山町、2024年)
●「弧上の光」国際芸術センター青森(青森、2019年)
●「シャルジャ・ビエンナーレ13 Tamawuj」(シャールジャ、アラブ首長国連邦、2017年)
●「石田尚志 渦まく光 Billowing Light: ISHIDA Takashi」(横浜美術館/沖縄県立博物館・美術館、2015年)
OVERVIEW | Taka Ishii Gallery