マーク・マンダース “Self-Portrait as a Building(建物としての自画像)”
マーク・マンダースは、ベルギーを拠点に活動する現代美術作家(1968年、オランダ、フォルケル出身)。
マンダースは、2013年の第55回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展のオランダ代表に選出されるなど国際的に活躍。日本では2020年に金沢21世紀美術館で「Double Silence」(ダブル・サイレンス/ ミヒャエル・ボレマンスとの二人展)、2021年に東京都現代美術館での国内初の個展「The Absence of Mark Manders」(マーク・マンダースの不在)と2年続けて大規模な展覧会が開催された。
1986年から、「Self-Portrait as a Building(建物としての自画像)」をコンセプトとして、「想像上の」部屋に、緻密に練られた配置図に基づいて彫刻や家具、日用品や建築部材などを配するインスタレーションを制作。
ある瞬間を凍結したかのような不朽性や普遍性を含む彫刻の質の高さが評価される。
彫刻家として名を馳せるマンダースだが、はじめは詩人としてスタートした。
ある時、鉛筆やハサミに光があたっているのを見て、建物の見取り図のように床に並べて配置。言葉ではなく物で自画像(セルフ・ポートレイト)を描くことを試みた。これが発展して「Self-Portrait as a Building(建物としての自画像)」というマンダース独自のコンセプトとなる。
自身が架空の芸術家として名付けた、「マーク・マンダース」という人物の自画像を「建物」の枠組みを用いて構築する。その建物の部屋に置くための彫刻やオブジェを次々と生み出しインスタレーションとして展開することで、作品の配置全体によって人の像を構築するという、きわめて壮大でユニークな世界観を展開している。
二人展「ダブル・サイレンス」のキュレーションを行った金沢21世紀美術館のチーフ・キュレーター黒澤浩美氏は、「マーク・マンダース流のやり方で、言葉ではなく物で自分自身を書き記したことは、世の中になかったものを提示したことに他ならない」(黒澤浩美「ダブル・サイレンス」『MICHAËL BORREMANS MARK MANDERS: Double Silence』2020年)と評する。
「言葉ではなく、物で書くこと」について、マンダース自身も「物は最も強い瞬間をとらえることができるものだと思う。・・・移り行く世界の中で物はそのままの状態であり続けます。」としたうえで、2021年の個展「マーク・マンダースの不在」(東京都現代美術館)に際し、次のように語っている。
「実際の物を使って書くことができていて良かったと思っています。紙に書くのではなくて。これをやればやるほど、物の言語というものが非常に重要であると確信するようになってきました。例えば、彫刻や物を見ると時には作り手の頭の中や心の中を翻訳することができます。そういうものは、言葉そのものよりもダイレクトに語りかけてくると思います。やはり、物を実際につくる方が、作家の頭の中を歩いていくことができる。そういう意味でとても面白いと思うんです。」(東京都現代美術館「2021年2月17日、24日の東京都現代美術館によるインタビューより作家の言葉 マーク・マンダース―マーク・マンダースの不在」展出品リスト2021年)
言葉で書かれたものであれば、話者の考えをおおよそ正確に伝えられるが、物の場合、作品を見る人にその人独自の考えや想いを抱かせるスペースが生まれる。言葉と違い、物にはあらかじめ意味と情報があり、それは見る人ごとに異なる。そのことが、マンダースのセルフ・ポートレイトの複雑さを生んでいる。
2024年には、ギャラリー小柳(東京、銀座)にてマーク・マンダースによる個展「Silent Studio」が開催。(会期は、2025年3月8日まで)
「Silent Studio」と題された本展では、ギャラリーの空間を半透明の薄いビニールで囲っていることで、まるでアーティストのスタジオに招かれたかのような錯覚におちいる。
展示空間の中央には、インスタレーション《Bonewhite Clay Head with Two Ropes》(2018-2024 年)。今回のブロンズの色は、灰色に近い白で、脆さや儚さを感じさせる。乾燥してひび割れたかのような彫刻は、ロープで留められ、作業台の上に置かれているため、今にも崩れそうな緊張感を醸し出している。
同時に、あたかもマンダースが自身のスタジオで制作途中であるかのようで、今まで制作していた作家がふとスタジオを束の間不在にしているかのようでもある。
静寂に包まれたスタジオにある、脆く壊れそうで儚さが漂う色彩でありながら、ブロンズという強固な素材で作られた彫刻。そこには、まるで、ある瞬間を凍結させたかのような美しさがある。
新作《Nightfall Scene》(2024)の深い青色は黄昏時の空を表し、詩的な空間をつくりあげている。色や素材を通して、この作品は静かに対話をしているようだ。
「建物としての自画像は時間がすべて凍結しています。私の作品、私にとってすべての作品は同じ瞬間に存在します。」(東京都現代美術館「2021年2月17日、24日の東京都現代美術館によるインタビューより作家の言葉 マーク・マンダース―マーク・マンダースの不在」展出品リスト2021年)
物はそのままの状態であり続ける、古代エジプトやギリシアの彫刻がそうであるように。そして、それらの作品は、その存在により、長い年月を通して我々に、作品の意義を考えさせ続ける。
同様に、マンダースの作品も、彼自身の普遍的な問いである「結局のところ私は誰で、どこから来てどこへ行くのか」(黒澤浩美「ダブル・サイレンス」『MICHAËL BORREMANS MARK MANDERS: Double Silence』2020年)を、鑑賞者に問いかけ続けているのである。
ARTIST Info
Mark Manders
1968年 オランダ フォルケル生まれ、ロンセ ベルギー在住
主な展覧会
● 2025 「Mark Manders」Museum Voorlinden(ワッセナー、オランダ)
● 2024 「Silent Studio」ギャラリー小柳(東京)
● 2021 「マーク・マンダース-マーク・マンダースの不在」東京都現代美術館(東京)
● 2020 「ミヒャエル・ボレマンス マーク・マンダース|ダブル・サイレンス」金沢 21 世紀美術館
● 2013 「Room with broken Sentence」Dutch Pavillion, 55th Venice Biennal(ヴェニス)
OVERVIEW | Mark Manders
| Gallery Koyanagi “Silent Studio”