千葉正也が一躍注目を集めるきっかけの一つは、作品《平和な村》(2006年)が、高橋龍太郎に見いだされ、そのコレクションに所蔵されたこと。現在、千葉の作品は、東京都現代美術館や国立近代美術館などの国内外の美術館のほか、目利きのアート・コレクターが所蔵するに至っている。
目利きたちは、どこに千葉の作品の魅力を見出しているのだろうか。
2021年に千葉の大規模な個展を開催した東京オペラシティ アートギャラリーの紹介文から、その魅力をひも解いてみたい。
作品の魅力1 | 多彩な方法を軽やかに駆使し、斬新でスリリングな創作活動を展開
千葉の絵画は、紙粘土や木片で人型のオブジェを制作し、寄せ集めた身の回りの品々とともに周到に配置した仮設の風景を作ることからスタート。これを、木、金属、プラスチックなどの質感を精巧に描き分ける卓抜なテクニックを駆使して絵画化し、自作の簡素な木製スタンドに展示する。こうして、絵画と彫刻、二次元と三次元の世界の境界を曖昧化させる。
また、自身の顔を、舞台女優やテコンドーの選手などの顔に直接描く《自画像》シリーズなど、絵画だけにとどまらず、写真、映像、インスタレーション、サウンドアート、パフォーマンス、資料展示などさまざまな方法を軽やかに駆使し、斬新でスリリングな創作活動を展開しつづけている。
作品の魅力2 | 絵画を通してエキサイティングな鑑賞体験をもたらす試み
千葉正也の作品は、「古今東西の絵画表現のさまざまな達成や成果を誠実に継承しつつ、現代アートの枠組みに対して、絵画という長い歴史をもつメディアを通じて揺さぶり動かそうとするもの。」
(出典:東京オペラシティアートギャラリー 千葉正也個展「展覧会について」)
リアルと虚構が交差する千葉独自の複雑な世界観、そして大胆でユニークなペインティングへのアプローチ。一度見たら忘れられない、”千葉ワールド”に引き込まれていく、そんなエキサイティングな鑑賞体験がもたらされるであろう。
作品の魅力3 | 「生きられた虚構の制作」
千葉とのインタビュー記事において、美術評論家の松井みどり氏は、千葉のイメージと構成のあり方を「生きられた虚構の制作」と名付けたい、とする。
そして、千葉のイメージは「論理的な思考の説明や表象というよりは、特殊な感情が強い感覚的効果と結び付いて産み出される心的イメージと考えることができ、フィクションでありながら感情的現実の像として作者と観客の生の一部になる」ようである、と評する。
(記事の詳細は、こちらをご覧ください。)
Eye from ART PREVIEW TOKYO
松井氏によるインタビューのなかで、千葉は「ペインティングの持っている時間みたいなものは、3Dを超えている」が、「それは、たぶん、ペインティングの空間では、時間がゆっくり流れたり、ずっと付き合えるようなものだったり、もっと多次元なものだからだ」と語っている点に注目したい。
現代アートは、近年、デジタル、VR、コンピューターを使った先端領域などへとエリアを拡張し続けているが、そのようななかで、千葉のペインティングはどのような展開をみせるだろうか。今後も目が離せない。
「フィクションの現実性を求めて:千葉正也インタビュー 聞き手:松井みどり」は、千葉作品を理解するうえでも参考になるため、ご関心のある方はご一読下さい。
Overview|ShugoArts
千葉の作品は、自作したモチーフを繰り返し用いたり、取り巻く環境や過去の出来事から採取したイメージをキャンバス上に再現したりと、自ら選んだ対象に何度でも立ち返り、能動的に関わるプロセスを経て描かれる。卓越した技術力はモチーフに混在する様々な素材感を描き分け、現実らしく描かれた事物、純粋虚構、リアルの世界が交差する独自の複雑な世界観を作り上げる。千葉芸術は古今東西の絵画芸術の様々な成果に対する誠実な継承と同時に、既存の現代芸術の枠組みを絵画というメディアを駆使して揺さぶる大胆不敵な表現である。
Artist Info
Masaya CHIBA
1980年神奈川県生まれ 東京都在住
多摩美術大学美術学部絵画学科油画専攻卒業
主な展覧会
●「横の展覧会」シュウゴアーツ(東京、2023)
●「Appearing → Talking about the object of regrets or obsession → Dancing → Leaving (resting in peace or just simply leaving)」Bel Ami(ロサンゼルス、アメリカ合衆国)
●「千葉正也個展」東京オペラシティアートギャラリー(東京、2021)