Nerhol 種蒔きと烏 Misreading Righteousness
Nerhol(Nerhol(ネルホル))は、グラフィック・デザイナーの田中義久と彫刻家の飯田竜太により2007年に結成された異色のアーティストデュオ。
連続イメージ(静止画)の積層を素材に、その厚みのある静止画の積層を彫りこむ斬新な表現手法の作品などで、国内外から注目を浴びる。
2024年に、千葉市美術館で開催された大規模個展「Nerhol 水平線を捲る」では、結成以来の表現活動を振り返り、その変遷と深化を一堂に示し、大きな反響を呼んだ。(令和6年度の芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞)
2025年7月から埼玉県立近代美術館で開催している本展覧会「Nerhol 種蒔きと烏 Misreading Righteousness」(会期は10月13日まで)は、千葉市美術館での展覧会以後に制作された新作を中心に未発表作を加えた約80点で構成。
新たなアプローチで進化させた今回の新作個展は、彼らのミッドキャリア・レトロスペクティブの第二幕ともいえる展覧会だ。
APTでは、2024年に、Nerholの生み出した、厚みのある静止画の積層を「彫る」という独自の手法に焦点を当てて、「Nerhol ”Finding something non-ordinary in daily life”」を紹介。
(記事「Nerhol ”Finding something non-ordinary in daily life」は、こちらからご覧いただけます)
「Nerholは、その現代的な視座から今後、どのような新たな表現に挑戦していくのだろうか。」と期待を込めてAPTは紹介したが、1年足らずでその機会が訪れた。
本展覧会で、Nerholは「積層させた連続イメージの彫刻」を、どのように進化させたのだろうか。
雄大に広がるNerholの世界観
埼玉県立近代美術館の空間を最大限いかすインスタレーションを試みたNerhol。
本展のハイライトともいうべき新作(《Hidden Crevasse》(2025))、従来の手法での最大規模の作品(《Cornus florida linn》(2025))などを展示する大展示室は、スライディング・ウォール(可動壁)やカーペットを撤去し、遮るもののない空間。
そこにはNerholの表現の世界が雄大に広がる。

Nerholの主要なモチーフのひとつである帰化植物。
本展では、「帰化植物」をモチーフにした新旧の制作アプローチの違いを鑑賞することができる。
そこで、Nerholが「帰化植物」をモチーフとするようになった背景とともに、本展で鑑賞できる2つのアプローチの違いをみてみよう。
「帰化植物」をモチーフとした背景
Nerholは、「帰化植物」を題材とした作品制作に至った背景を次のように語る。
2020年、この埼玉県立近代美術館で開催されたグループ展である「New Photographic Objects」展にNerholは参加した。しかし、コロナ禍で展覧会の開催が順延になってしまう。
鑑賞者の訪れることのない展覧会場で、自分たちの作品と対峙したという。
そのときの「自分たちの時間を重ねて見つめる行為と重なる」、「見ていくことが重要な行為である」という気づきから制作されたのが「帰化植物」であった。
Nerholはコロナ禍に文化人類学者のアナ・チンとの対話を重ね、人間の社会活動の影響を受ける植物への思索を深めていった。

ハナミズキ《Cornus florida linn》(2025):「帰化植物」最大規模の作品
ハナミズキは大正時代に日本から米国へ送られたソメイヨシノの返礼として、米国から日本へ60本が贈呈された。
そのうち、現存するハナミズキは1本。
その1本を動画で撮影し、その連続イメージ(静止画)を水平に積層して、水平方向の断面を彫りこんだ作品。
本作品は、「帰化植物」をモチーフとした最大規模の作品となった。

シロツメクサ《Hidden Crevasse》(2025):Nerholの「新しいアプローチ」
一般的にクローバーと呼称されることが多いシロツメクサは、明治以降、牧草として輸入され、全国各地に分布するようになった帰化植物の一つ。
作家が撮影した数十秒の動画から、2万枚以上の連続するイメージの静止画をとりだし、その積層した写真の断面をプレゼンテーションした作品。

シンプルな好奇心から生まれたアプローチ
これまでは、水平に連続イメージ(静止画)を積み重ねて、その面を掘り下げていた。
本作品は、水平に積層した静止画の連続イメージを、垂直に手作業で一枚一枚裁断し、静止画の横方向の断面を示す。
2万枚におよぶ静止画の瞬間が露出しているこのアプローチにより、人間の知覚を超越した情報を提示する作品となった。
今回のアプローチについて、Nerholは「積層を側面からみたら、どう見えるのだろうか」というシンプルな好奇心から始まったという。
「静止画のイメージの積層の彫る向きを変えることで、知覚や意識が刷新される」と語るNerhol。
今までも「彫ることでどのように変化が生まれるか、変化に自分たちがどう対応していくか」という関心を持ち続けている二人ならではの発想だ。


多様な素材への新たなアプローチ
本展では、「帰化植物」以外にも、興味深いインスタレーションが楽しめる。
例えば、円形の什器に展示されたインスタレーション《carve out》(2023)、珪化木の年輪を金属によって覆い隠した珪化木の新たな展開の《connecticut》(2025)、石灰石を原料とする高強度な紙のインスタレーション《rock, scissors, papers》(2025)などだ。
「多様な素材への新たなアプローチをみせつつ、素材の違いをこえて作品同士が呼応するインスタレーション」(本展プレス・リリース)となっている。


Nerholの強み、鑑賞のポイント
本展のキュレーション担当は、学芸員の大浦周だ。
大浦は、若手現代美術作家の登竜門として有名なVOCA展(The Vision of Contemporary Art)に、Nerholを2017年度に推薦していた人物。
Nerholの作品について、大浦は当時、
「写真がはらむ問題や、一元的なとらえ方ではなく、さまざまなジャンルや角度から多角的にアクセスできる作品」
とそのポテンシャルを見抜いていた。
「二人だからこそできる視点や、アプローチの違い。紙を彫るという物理的な行為を通して、他者と共有し、技術開発する。そこがNerholの一番の強み。」と語る。
Nerholのアイディアのスマートさと戦略性のある作品は、「海外でも存在感を発揮できる」と、大浦は高く評価する。
本展「Nerhol 種蒔きと烏 Misreading Righteousness」に込められたメッセージ
「蒔かれた種がその場で育つこと、掘り返されて運ばれどこか別の地で芽吹くこと。どちらもある面では正しく目的を遂げていると同時に、見方を変えれば失敗は過誤になりえます。両義的な世界のあり様をその複雑さのまま掬い上げようとする制作の営為が、私たちの日常への意識にささやかな変容をもたらす。本展がその機会となることを願います。」(本展プレス・リリース)
その独自性と高い質感の圧倒的な美しさを伴った作品群が織りなすNerholの世界。
本展の空間でしか味わえないNerholの世界を、国を超えてあらゆる人々に体感してほしいと思いながら、会場を後にした。(APT)

OVERVIEW
Nerhol Misreading Righteousness
The Museum of Modern Art, Saitama:2025.07.12 – 10.13
ARTIST Info
Nerhol
田中義久 1980年静岡県生まれ。武蔵野美術大学造形学部空間演出デザイン学科卒業。
飯田竜太 1981年静岡県生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術専攻修了。
主な展覧会
●「水平線を捲る」千葉市美術館(千葉、2024年)
●「Tenjin, Mume, Nusa」太宰府天満宮宝物殿(福岡、2024年)
●「Nerhol: Beyond the Way」Leonora Carrington Museum(San Luis Potosí, Mexico, 2024)
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