EXHIBITION “Anti-Action: Artist-Women’s Challenges and Responses in Postwar Japan” 2026.01.18
「アンチ・アクション 彼女たち、それぞれの応答と挑戦」東京国立近代美術館 展示風景 撮影:木奥惠三

アンチ・アクション 彼女たち、それぞれの応答と挑戦

東京国立近代美術館(東京都、千代田区)において、企画展「アンチ・アクション 彼女たち、それぞれの応答と挑戦」を開催。(会期は2026年2月8日まで)
なお、本企画展は、豊田市美術館、東京国立近代美術館を経て、兵庫県立美術館(2026年3月25日~5月6日)へ巡回。

本展は、美術史学者で大阪大学大学院人文学研究科の中嶋泉准教授の著書『アンチ・アクション』(2019年)(文庫版『増補改訂 アンチ・アクション―日本戦後絵画と女性の画家』2025年) を起点とし、「アンチ・アクション」という概念をより拡大解釈。
学術研究者と美術館の学芸員らとの共作となる稀有な展覧会だ。

中嶋の『アンチ・アクション』は、草間彌生、田中敦子、福島秀子の3人の画家を中心として、1950-60年代の美術史をジェンダーの観点から組み直し、この時代の女性の美術家と作品の再解釈を行ったもので、2020年にサントリー学芸賞を受賞している。

本展では、同書で取り上げられた3名の美術家だけでなく、同時代に活躍した14人の女性の美術家の作品(約100点)が展示されている。

「アンチ・アクション 彼女たち、それぞれの応答と挑戦」東京国立近代美術館 展示風景
「アンチ・アクション 彼女たち、それぞれの応答と挑戦」東京国立近代美術館 展示風景
photo by APT

本展の重要なポイントは、キャッチコピーである
「新しい時代を象徴していた女性の美術家はなぜ歴史から姿を消してしまったのか」
の部分と語るのは、学芸担当の成相肇(東京国立近代美術館主任研究員)。

学術研究者である中嶋と美術館の学芸の担当者たちが共作をしたという特徴がある本展のコンセプトを、プレス発表での成相の説明をもとに紹介する。

時代背景|「新しい時代を象徴していた女性」
敗戦直後の日本では、GHQ主導により男女格差の是正にむけて、婦人参政権が実現し、日本国憲法の法の下の平等の理念に基づく制度の導入が進められた。

キャッチコピーにある「新しい時代を象徴していた女性」は、男女の格差の解消と女性の登用を進めようとする戦後日本の象徴的な動きを反映する。

しかし制度的に新しい男女格差の解消を図る考え方が、すぐに社会に浸透したとはいえなかった。

本展に紹介されている1950年代から60年代に登場する日本の女性美術家たちは、新時代の象徴としてメディアなどの脚光を浴びつつも、「女性らしさ」を期待する男性記者や、ほぼ全面的に男性によって占められていた美術批評家たちにより、まだバイアスがかかった扱われかたをしていた。

フランスの評論家ミシェル・タピエ(1909-87)により提唱され、絵画の物質感や方法に着目する「アンフォルメル」(未だかたちを持たない、という意味)の概念は、何を描くかではなくて、どういう風に描くかがポイント。
画家の性別や国籍などは問わず、作品本位で評価しようという運動で、女性の美術家の活動を後押しすることにつながっていた。

具体的には、タピエは日本滞在中に福島秀子や田中敦子ら、ほとんど無名だった女性美術家を積極的に取り上げ、
彼女たちを新潮流の担い手として紹介し、男性中心だった前衛美術の舞台に女性を押し上げる効果をもった。

これまで、アンフォルメル・ブームと新人の女性美術家の台頭が重複するという指摘はほとんどなかったが、これは中嶋の研究成果の第一のポイントである。

田中敦子《金のWork A》1962 部分 photo by APT
田中敦子《金のWork A》(部分)1962 千葉市美術館蔵 
©Kanayama Akira and Tanaka Atsuko Association  photo by APT

美術運動の背景2 | 米国発「アクション・ペインティング」の台頭
しかし、アンフォルメルのブームは長続きしなかった。
アンフォルメルへの疑問が深まるのとちょうど同時期に、アンフォルメルに近い抽象絵画である「アクション・ペインティング」の動きがアメリカから起こった。

米国の批評家ハロルド・ローゼンバーグ(1906-78)により提唱された「絵画は完成されたイメージではなく、身振りや決断や速度、反復が残す「行為の痕跡」である」という視点が広まるなか、この「アクション」という言葉が、
「勇ましいもの」「激しいもの」と結びつき、男性的な作品に集中していった。
一気に男性の美術家中心的な傾向が強まり、その結果、女性美術家は周縁に追いやられていく。

近しい抽象的な表現を指す「アンフォルメル」と「アクション」(・ペインティング)というその言葉の差により、
一気にジェンダー差が深まったとの分析は、「中嶋氏の研究成果の大きなポイント」と成相は指摘する。

「アンチ・アクション」|アンフォルメル・ブームに活躍した女性美術家たち
「アクション・ペインティング」への注目が集まるのに対抗して、本展の女性美術家たちはアクション的ではない方向を模索した。サブタイトル通り、「彼女たち、それぞれの応答と挑戦」を展開していった。

例えば、草間彌生は、

「アクション・ペインティングのメッカ、テンス・ストリートの全盛期に住んで、わたしは彼らの時代の波にのって、アクション・ペインティングをやったわけではないの。その只中に立って、その正反対の、アクション・ペインティングの否定をただちにやったわけ。それは一面の網目。構図も中心も、エノグのシブキ、も、なかった。」
(草間彌生、1993年)

「ここが本展と中嶋氏の著書の一番大きなポイント。」と成相。

「美術史研究、評論の変化、批評、変化、偏りを、研究しただけではなく、「アンチ・アクション」という言葉で、
新しい概念を提唱して、アクション以外の作品を再評価しようという目線を促した。」
と本展につながる中嶋の功績を語る。

この「アンチ・アクション」の概念を基軸にして、本展では、アンフォルメル・ブームにのって1950-60年代に活躍をした14名の女性美術家とその作品が選ばれた。

山崎つる子《作品》1957/2001 photo by APT
山崎つる子《作品》1957/2001 芦屋市立美術博物館蔵
© Estate of Tsuruko Yamazaki, courtesy of LADS Gallery, Osaka and Take Ninagawa, Tokyo photo by APT

作品鑑賞のポイント
アクション(・ペインティング)以外の方法が、どのように女性美術家たちによって開発されたのか。キュレーターである成相は、「作品の「方法」 「現象」 「素材」「 物質」に注目してほしい」と語る。

草間彌生や福島秀子の作品にみられる「方法」
草間彌生は、小さいタッチを無数に繰り返して画面を覆うという実践を行っている。
福島秀子は、直接描くかわりに、瓶の蓋などに絵の具をのせて、画面にスタンプのように「捺す」という方法がとられている。画面のぶどうの房のような円形が集まりは、「捺す」方法によるもので、同一の形の集積が画面上で力を生み出している。

福島秀子《作品109》1959 部分 photo by APT
福島秀子《作品109》(部分)1959
高松市美術館蔵  photo by APT

アクション的ではない傾向として、「現象」を追求するというアプローチもみられる。
宮脇愛子や田中敦子は、質量を持たない光だとか電気信号、そういったものがもたらす「現象」を扱った。
白髪富士子は、「ひび割れ」や「しわ」といった大変微細な「現象」に注目し、創作。
「しわが寄った紙がその元の紙とわずかに異なっていて、そのことで運動だとか動きや変化、そういったものが生まれるものを扱っています。」と成相は説明する。

白髪富士子 《無題》 1955 部分 photo by APT
白髪富士子《無題》(部分)c. 1955
国立国際美術館蔵 photo by APT
宮脇愛子 《作品》 1967年 真鍮 部分 photo by APT
宮脇愛子 《作品》(部分)1967
photo by APT

多田美波はアルミニウムなど、これまで彫刻では、あまり使用されることのなかった「素材」を用いて作品を制作。

多田美波 《周波数 37303055MC》 1963 アルミニウム
多田美波 《周波数 37303055MC》 1963 多田美波研究所蔵 撮影:中川周

他にも工業用ペイント、樹脂製アクリル板を素材に使用した作品など、「物質」感もアンフォルメル運動に伴って非常に重視されたポイントで、本展の美術家14名とも、力点を置いている。

山崎つる子 《作品》 1964 部分 photo by APT
山崎つる子 《作品》(部分)1964
芦屋市立美術博物館蔵 © Estate of Tsuruko Yamazaki, courtesy of LADS Gallery, Osaka and Take Ninagawa, Tokyo  photo by APT

このように、本展の女性美術家たちの当時の作品から、新規性に富んだ、多様でオリジナリティあふれる絵画の表現を見ることができる。

中嶋は、
「それぞれが、同時代の絵画の試みとして、いくつもの関心―物質、行為、スケール―を共有し、それぞれに対する応答を提示している。これらの絵画は画家たちのオリジナリティを示すとともに、それだけではなく、絵画の表現とその解釈を拡大することに貢献しているはずだ。」
と捉え、単なる「アクション・ペインティング」の反動とすることはできない、と異を唱える。
(中嶋泉「「アンチ・アクション」—女性の美術家と日本の戦後抽象画」『アンチ・アクション 彼女たち、それぞれの応答と挑戦』2025年)

学術研究による「視点」を起点として、あの時代の美術作品の多様な表現を実際に見ることにより、女性美術家たちの果敢な挑戦と作品のパワーに心を動かされる展覧会だ。(APT text by MK)

福島秀子《作品5》1959 作品と中嶋泉氏 photo by APT
福島秀子《作品5》1959 作品と中嶋泉氏  photo by APT

OVERVIEW
Anti-Action: Artist-Women’s Challenges and Responses in Postwar Japan
アンチ・アクション 彼女たち、それぞれの応答と挑戦
豊田市美術館 | 2025.10.4 – 11.30【会期終了】
東京国立近代美術館 | 2025.12.16 – 2026.2.8 
兵庫県立美術館 | 2026.3.25-5.6

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