Daniel Buren “Third Eye, situated works – 知覚の拡張ーそこにある眼差し“
ダニエル・ビュレンと言えば、ストライプ柄。
ビュレンは、一貫して8.7センチメートル幅の白と有彩色の縦のストライプ柄(以下、ストライプ)を使用。
「in situ」(その場における制作)で知られ、壁面、路上や建築、都市空間や風景など多様な空間でSite specificな作品を制作。
ダニエル・ビュレンは、1938年パリ生まれ。1960年代より制作活動を開始。
1986年ヴェネツィア・ビエンナーレにフランス代表として参加、最優秀パヴィリオン賞(⾦獅⼦賞)を受賞。
グッゲンハイム美術館(ニューヨーク、アメリカ、2005年)をはじめ、ポンピドゥー・メッツ(フランス、メッツ、2011年)、パラッツォ・ブオンタレンティ(ピストイア、イタリア、2025年)など、世界中の主要なインスティテュートで個展を開催。日本では、2007年に、⾼松宮殿下記念世界⽂化賞(絵画部⾨)を受賞。
2026年、ビュレンの2つの個展が開催。
「Third Eye, situated works – 知覚の拡張ーそこにある眼差し」(SCAI THE BATHHOUSE、3月17日-5月16日)
「Situated Works 1966-2013」(SCAI PIRAMIDE、5月14日-9月19日)
個展の開催に先立ち、森美術館(東京都、港区)で「アージェント・トーク051:ダニエル・ビュレン」(2026年3月)に登壇し、自らの60年以上におよぶ芸術活動を振り返り、哲学的ともいえる深い思考をにじませ、「場」の諸要素にあわせた作品の創造性を語った。

ビュレンの原点「ストライプ」と「in situ」
1960年代よりコンセプチュアル・アートの地平を切り拓いてきたビュレン。
ミニマルなストライプを用いた作品の、「in situ」(その場での制作)の原点となる1960年代の初期の活動について、ビュレンは、アージェント・トークで次のように話し始めた。
「私は出身地であるパリの街中の至る所に、ストライプを貼り付けるという作業を行いました。パリは非常にオープンで広く、使い勝手の良い場所でした。主に屋外広告の表面に直接貼り付けましたが、空き壁やドアなど、あらゆる場所に貼りました。このストライプ模様は、過去60年間、全く変わっていません。」
(「アージェント・トーク051:ダニエル・ビュレン」(森美術館)の作家のトークより)
当時フランスでは、日よけやテントなどに同じようなサイズのストライプの布地が使用されていたが、ビュレンはサイズをそのまま取り入れ、8.7センチメートル幅のストライプを一度も変えていない。
しかし、(マルセル・デュシャンの)「レディメイド」とみなされないようにするため、ビュレンは、ストライプの布にごくわずかに手作業で加工を加えて使用していた。

「ストライプ」
どうして、ストライプに着目したのか。
「私がストライプを使い続けている理由の一つは、ストライプには「特別な意味をもたない」(no power)からだと思います。視覚的に知られているものとして、それは独創的(original)なものではありません。」
「それが、私が今でもストライプを使い続け、自分自身にとっても全く新しい使い方を見つけられる主な理由かもしれません。」と語る。(「アージェント・トーク051:ダニエル・ビュレン」(森美術館)の作家のトークより)
一見「特別な意味をもたない」ストライプ柄だが、建物や景観では背景と混ざることなく極めて目立つ。
ビュレンがストライプのことを「Visual tool」(見るための道具)と呼ぶ所以でもある。
それはビュレンが使う色彩も関係する。
ビュレンの色彩の使い方は、初期から同世代の作家とは一線を画していた。
「同世代の多くの芸術家がミニマリズムやコンセプチュアル・アートの厳格さを名目に色彩に対して示していた敵意とは一線を画していました。色彩は純粋に感覚的なものであるため、私たちの色彩体験は言葉では表現しきれません。ビュレンにとって、色彩は一種の「視覚的思考」のようなものなのです。」
(「PERSPECTIVES」『Daniel Buren : travaux in Situ 2010-2011』Centre Pompidou-Metz 2011)
しかし、ビュレンの色彩の使い方は客観的。例えば、選択される様々な色は、それらが使用される場所の言語での名称のアルファベット順に並べられ、作家の好みが介入することを防いでいた。

「in situ」
パリでの活動を開始した当初、「なぜスタジオが必要なのだろう?」と考え、「街頭こそが非常に興味深い場所」であると直感。ビュレンは路上で制作を始め、パリの街の屋外広告にストライプをゲリラ的に貼っていった。
街頭で見るストライプは、このストライプによって際立たせられた空間こそが、作品を形成する要素となる。
「作品が展示される場所の地形的、文化的特性と本質的に結びついた芸術実践を説明するために、「in situ」という概念を提唱」(「KEYWORDS」『Daniel Buren : travaux in Situ 2010-2011』Centre Pompidou-Metz 2011)
するビュレンは、ストライプを設置することで、今まで見えてこなかったもの、気づかなかったものを浮上させる。
パリの街頭ではじまったビュレンのストライプの作品は、以降、ギャラリー、美術館、歴史的建造物だけでなく、日本の風景やフランスやイタリアの庭園、ある時はブラジルの海上のヨットの帆へと拡張を続ける。
「in situ 」から「situated work」へ
ダニエル・ビュレンの新作《Prismes et miroirs : Haut-relief (プリズムと鏡 :高浮き彫り)》シリーズ6点から構成される個展「Third Eye, situated works – 知覚の拡張ーそこにある眼差し」が谷中のSCAI THE BATHHOUSEで開催。

この新作の特徴は「situated work」(その場所のための作品)であるところ。
Site specificな「in situ」の作品とは異なり、場所を移動させることができる。
2003年、豊田市美術館(愛知県、豊田市)で開催された展覧会「ダニエル・ビュレン : 移行|場/作品」で、「situated work」について、ビュレンは次のように語っている。
「「situated work」とは、置かれた場所と本質的なつながりをもつとはいえ、厳密な規定が守られるかぎりでは、ほかの場所に設置することもできる作品である。」
「この場合には、作品はそのつど空間の一部となり、空間を変化させ、空間そのものによって変化させられる。新たな空間から影響を受け、新たな場所を変化させるわけである。」
(ダニエル・ビュレン『展覧会について』「ダニエル・ビュレン : 移行|場/作品」豊田市美術館 2003)

インダストリアル・カラー・パレットからランダムに選ばれた色彩が立体的な三角形の「Prisme」(プリズム)に塗布され、鏡面様の支持体の上に配置される。
鏡面を使用していることで側面のストライプ、取り巻く空間や鑑賞者が映りこみ、鏡が「第三の目」のように機能し、通常は見えないものを見えることを可能にする。
ビュレンは、鏡について、「空間を変容させるための重要なツールのひとつであり、空間を拡張、断片化、変形させることで変容させる。」と持論を唱える。
(「PERSPECTIVES」『Daniel Buren : travaux in Situ 2010-2011』Centre Pompidou-Metz 2011)
鏡の効果によって、鑑賞者の姿が作品に映り込むことも含めて唯一無二の鑑賞体験となり、作品の真髄を理解することができる。

ビュレンの語る作品のポイント
「なぜスタジオが必要なのだろう?」とアートのシステムの問いかけから始まったビュレンの「in situ」という創作活動のスタイル。
作品について大切にしてきたポイントについて、ビュレンは、
「目に見えるものが単なる壁の絵ではないということです。それ自体が目的として提示されたオブジェクトのようなものではなく、壁に貼られた瞬間に壁の一部、つまり建築の一部、生活の一部となり、あらゆるものに開かれたものになるのです。」と語る。(「アージェント・トーク051:ダニエル・ビュレン」(森美術館)の作家のトークより)
作品の自立性を疑い、それがおかれる場所および環境との関わりを探求してきたビュレン。
かつて日本の京都で「借景」の思想に出会い、制作の概念を深化させたともいわれる。
今までのビュレンの「situated work」に特化した展覧会「Situated Works 1966-2013」が、六本木のSCAI PIRAMIDEにて、2026年5月14日から 9月19日まで開催。
展示替えがなされる後半(7月23日-9月19日 )では、6.5時間に及ぶ映画『Beyond time, as Far as the Eye Can See』(2018年/ダニエル・ビュレン制作)も公開。
(Text by MK, APT)

ARTIST Info |
Daniel BUREN
1938年フランス、Boulogne-Billancourt生まれ、同地在住
主な展覧会
● 2025 「DANIEL BUREN. Make, Unmake, Remake. Works in situ and situated works 1968-2025」Palazzo Buontalenti(Pistoia、Italy)
● 2022 「Daniel Buren. Going for a Walk in a Zigzag」Espoo Museum of Modern Art (Espoo、Finland)
● 2011 「Daniel Buren: Échos, travaux in situ」Centre Pompidou-Metz(Metz、France)
● 2005 「The Eye of the Storm: Works in situ by Daniel Buren」Guggenheim New York(New York, USA)
OVERVIEW|
Daniel Buren “Third Eye, situated works” | SCAI THE BATHHOUSE | 3.17 – 5.16, 2026
Daniel Buren “Situated Works 1966-2013” | SCAI PIRAMIDE | 5.14 – 9.19, 2026