シンガポールを拠点に活動するアーティスト、ホー・ツーニェンの展覧会「ホー・ツーニェン エージェントのA」が東京都現代美術館で開催された。
ホー・ツーニェンは、映像作品を中心に国際的に活動するアーティスト
東南アジアの歴史的な出来事、思想、個人または集団的な主体性や文化的アイデンティティに独自の視点から切り込む映像やヴィデオ・インスタレーション、パフォーマンスを制作。既存の映像、映画、アーカイブ資料などから引用した素材を再編したイメージとスクリプトは、東南アジアの地政学を織りなす力学や歴史的言説の複層性を抽象的かつ想起的に描き出す。
ホー・ツーニェンの作品は、これまでに2011年の第54回ヴェネツィア・ビエンナーレにシンガポール代表として参加するなど、世界各地の文化組織、ビエンナーレなどで展示され、演劇祭や映画祭でも取り上げられてきた。国内でも、あいちトリエンナーレ2019(2019 年)、山口情報芸術センター[YCAM](2021 年)、豊田市美術館(2021 年)で新たな作品を発表し話題を呼んだ。
本展では、ホー・ツーニェンのこれまでの歴史的探求の軌跡を辿るべく、最初期の作品含む6 点の映像インスタレーション作品を展示するとともに、国内初公開となる最新作を展示。
ここに注目1 | ホー・ツーニェンの最新作《時間(タイム)のT》(2023年)
ホー・ツーニェンの最新作《時間(タイム)のT》(2023年)は、ホー・ツーニェンが引用しアニメーション化した映像の断片が、アルゴリズムによって、時間の様々な側面とスケール—素粒子の時間から生命の寿命、宇宙における時間まで—を描き出すシークエンスに編成される。
それらが喚起する意味や感覚は、時間とは何か、そして私たちの時間の経験や想像に介在するものは何かを問いかけているようで、ホー・ツーニェンの新たな展開ともいえる作品になっている。
ここに注目2 | VRと6面の映像で構成《ヴォイス・オブ・ヴォイド—虚無の声》(2021年)
近年日本で制作した作品からは、山口情報芸術センター[YCAM]とのコラボレーション作品《ヴォイス・オブ・ヴォイドー虚無の声》(2021年)を展示。東南アジアの歴史に深い関わりを持つ、第二次世界大戦期の日本を取りあげる。
哲学者の西田幾多郎や田辺元を中心に1930~40年代の日本の思想界で大きな影響力を持った「京都学派」にフォーカスした作品は、VRとアニメーションで構成される。
Eye from ART PREVIEW TOKYO
会場にめぐらされた映像作品のインスタレーション。畳に座り、VRゴーグルをつけて鑑賞するVR作品では、鑑賞者の身体の動きによってVR内の舞台が変わる仕組みになっている。そうした仕掛けもあって、作品の登場人物たちの思想や歴史的背景など、よりリアルに体感することができる。
いまだに政治的緊張を抱える東南アジア。穏やかな生活を守るためには「何を」すべきか、深く考えさせられた。
OVERVIEW
Ho Tzu Nyen: A for Agents
「ホー・ツーニェン エージェントのA」
東京都現代美術館|2024年4月6日~7月7日