「ピカソ meets ポール・スミス 遊び心の冒険へ」が国立新美術館(東京都、港区)で開催。(会期は9月21日まで)
パリ国立ピカソ美術館の所蔵するパブロ・ピカソ(1881—1973)の作品約80点を、英国のファッション・デザイナー ポール・スミスの手掛ける空間デザインで展示するというユニークな企画。
オープニングには、パリ国立ピカソ美術館のキュレーター Joanne Snrech(ジョアンヌ・スヌレッシュ)とデザイナー Paul Smith(ポール・スミス)も来日、華やかな幕開けとなった。
「新たな視点」で見るピカソ
本展は、2023年にフランスで開催された、パリ国立ピカソ美術館のピカソ没後50周年記念展「Picasso Celebration: The Collection in a New Light!」 を基にした国際巡回展。
没後50周年という節目の年にあたり、ピカソの功績を「新たな視点」から捉え直すことを目的として、美術館側がポール・スミスに空間デザインを依頼。
このコラボレーションが見事に当たり、2023年にフランスで開催された展覧会では、動員20万人以上という話題の展覧会となった。

「見て、感じて、楽しんで!」
本展に臨んで、ポール・スミスからのメッセージは、「見て、感じて、楽しんで!」と明快。
彼のデザインで国立新美術館のホワイト・キューブがどのような空間に創り上げられ、その空間に展示されたピカソの作品はどのように観えるのだろうか。

テーマに合わせた「16のセクション(空間)」
会場は、16のセクション(空間)から構成。
「バラ色の女性たち:《アヴィニョンの娘たち》への前奏曲」「青の憂鬱」「キュビスムの実験室」「闘牛」など、ピカソの代表的なテーマのセクションに加え、ファッション雑誌VOGUEの壁紙で空間が構成された「『ヴォーグ(流行)』中の芸術家」のセクションなど、ファッション・デザイナーの遊び心からの空間もみられる。
色彩も、「アヴィニョンの娘たち」はローズ色、「青の時代」はブルー、「闘牛」は赤、そして「子ども時代」はアルルカンの洋服を背景色とするなど、テーマにあわせた色調の空間となっており、視覚的にも作品のコンセプトや特徴を非常にわかりやすくしている。
APTでは、本展の16の空間のうち6つのセクションをピックアップして紹介する。

『ヴォーグ(流行)』中の芸術家 | セクション 01

子供のころから雑誌や漫画を愛読していたピカソ。
その後は書物に絵をじかに描き込むようになり、1951年の雑誌『ヴォーグ・パリ』にもデッサンを加える。
ウェディングドレスを纏う女性は、ピカソが写真の上にいくつか線を加え、グロテスクな印象へと変貌。
ポール・スミスは当時の雑誌VOGUEのカバーを壁紙とした空間を創り、そこに「ピカソのデッサンが付された『ヴォーグ・パリ』1951年5月号の誌面」などの作品を展示。
茶目っ気あふれる楽しい空間が広がっている。
バラ色の女性たち:《アヴィニョンの娘たち》への前奏曲 | セクション 03

1906年から1908年にかけて、形態と空間の単純化を追求し、キュビスムの基盤を築いたピカソ。
イベリア美術やアフリカ美術に着想を得て、褐色系の色彩を基調とした幾何学的で荒々しい新たな造形言語を模索。
膨大な習作を経て完成した《アヴィニョンの娘たち》(1907年)において、ピカソは、鑑賞者を圧倒するような暴力的なまでの視覚的革新を成し遂げる。
ポール・スミスは、《アヴィニョンの娘たち》の習作などを展示するこの空間をバラ色でまとめ上げた。
アッサンブラージュとコラージュ | セクション 05

ピカソは日用品を実践に組み込み、芸術は忠実に現実を再現するものだという規範に対抗。
スプーンや自転車のサドルなどを直接作品に取り込み、三次元へと広がるアッサンブラージュとした。
ピカソのコラージュ作品に呼応するような、ポール・スミスの花柄のパッチワークの壁面。
子ども時代 | セクション 07

ピカソが自身を投影し、多くの作品の主題となったアルルカン(道化師)。
彼の息子パウロがアルルカンに扮した作品の服装から、ポール・スミスは柄模様をピックアップし、そのテクスチャーを感じさせる空間を創り上げた。
「もしピカソと共通点があるとすれば…人生に対する姿勢が子供心を持っている(child-like)こと。それから、好奇心旺盛なところ。」と語るポール・スミス。(内覧会でのPaul Smithのコメント)
Preview(内覧会)の日のキュレーターのジョアンヌ・スヌレッシュとポール・スミスの企画説明も、この空間で行われた。
闘牛 | セクション 08

闘牛は、ピカソの生涯を通じた重要なテーマ。
闘牛場を生と死、あるいは性と死が交錯する象徴的な劇場として表現。
一方、軽快な筆致の版画の連作『ラ・タウロマキア(闘牛術)』のための挿絵では、闘牛の儀式の躍動感や祝祭性を巧みに捉える。
このセクションは情熱的なレッド一色でまとめられている。
ストライプ | セクション 09

1930年代にピカソはストライプ模様を実験的に用いて、愛する女性たちの肖像を描く。
柔らかな曲線とパステル調の色彩で描かれたマリー=テレーズ・ワルテルは官能性と安らぎを象徴し、鋭角的な形と暖色で描かれたドラ・マールは強い存在感を示している。
しかし、スペイン内戦やファシズムの影が忍び寄ると、連作〈泣く女〉に代表されるように、戦争の苦しみや絶望を投影した哀愁的な表現へと変容していった。
「ストライプの入ったピカソの肖像画を見て、この柄にさらに柄を加えたらすごく素敵だろうなと直感した。」
(本展図録「 09: STRIPES」『ピカソmeetsポール・スミス : 遊び心の冒険へ』2026)
晩年:1969—1972 | セクション 14

ピカソは 晩年を南仏ムージャンで過ごし、精力的に絵画や版画を制作。
特に人物像を好んで主題に取り上げ、晩年の作品でも衰えを見せない技量を見せつけ、新世代の画家たちにも大きな影響を与えた。
臙脂、オレンジ、緑、青の水平にすっきり伸びる4色のラインの空間で展示されるピカソ晩年の作品。
本展で必見のセクションのひとつともいえる。
この他にも、「キュビズムの実験室」(セクション 04)や、マネ《草上の昼食》を解体するピカソの連作の挑戦
「Le Déjeuner sur l’herbe《草上の昼食》」( セクション 12)なども見逃せない。
ピカソとポール・スミス―時代を超えた2人の創造性への好奇心
「作品を展示するとき背景を無地にするのは、世界中のどんな家や美術館でもよくやっていることだけれど、何か違うことをしてみたら面白いだろうと思ったんだ。」
と語るポール・スミス。(本展図録「09: STRIPES」『ピカソmeetsポール・スミス : 遊び心の冒険へ』2026)
ピカソの作品を前にして、空間デザインのインスピレーションが湧いてくる様子が垣間見られる。
内覧会でもポール・スミスは
「ピカソから学んだ一番大切なことは、彼の好奇心と、常に新しいアイデアや新しい制作方法に興味を持っていたことだ。」と語っていた。
力強いピカソの作品は、一見コラボレーションが難しそうに思われるかもしれない。
だが、自由な発想で創り上げられたポップでヴィヴィッドな色彩豊かな展示空間の中で観るピカソの作品は、新たな魅力をまとって輝いてみえる。
本展に寄せたポール・スミスのメッセージ「見て、感じて、楽しんで!」。
このメッセージを胸に、ポール・スミスの誘う空間で、没後50年を経たピカソの作品の世界で「遊び心の冒険」を楽しんでみてはどうでしょうか。

OVERVIEW
“Picasso, through the Eyes of Paul Smith” | 2026.6.10 – 9.21
The National Art Center, Tokyo