坂本龍一 “音を視る 時を聴く”
2023年に逝去した音楽家・アーティスト 坂本龍一の大型インスタレーションを包括的に紹介する大規模個展「坂本龍一 | 音を視る 時を聴く」が東京都現代美術館で開催。(2025年3月30日まで)
50年以上にわたり、多彩な表現活動を通して、常に時代の先端を切り開いた坂本龍一(1995-2023)。2000年代以降は、さまざまなアーティストとの協働を通して、「音を展示空間に立体的に設置する試み」を積極的に展開していた。
本個展では、坂本が東京都現代美術館のために遺した展覧会構想を軸に、彼の長年の関心事であった「音と時間」をテーマに、未発表の新作とこれまでの代表作であるサウンド・インスタレーション10点を展示。没後もアーティストとの協働により新たな一面を見せる、坂本龍一の創作活動の軌跡とは。
Shiro TAKATANIとのコラボレーション(協働)
なかでも高谷史郎は、坂本によるオペラ『LIFE』(1999年)の映像を担当。以来、高谷は、坂本と革新性の高いサウンド・インスタレーションの協働を試み、もっとも深い繋がりのあったアーティストの一人。
高谷は、「坂本はインスタレーションの枠からはみ出ることをいつも考えていた。舞台のシステムに規制されるのではなく、自分のやりたいことをして、新しい体験をしてもらいたいと。坂本が体験してもらいたいことがインスタレーションになっている。」と語る。
坂本龍一+高谷史郎《LIFE–fluid, invisible, inaudible…》
天井から吊られた9つの水槽の中に霧を発生させ映像が投影される、音と映像によるインスタレーション《LIFE–fluid, invisible, inaudible…》(2007)。高谷がはじめて坂本と協働したオペラ『LIFE』(1999)で使用された音と映像をもとに、新たな素材がインスタレーション用に加えられた。
サブタイトルに「流動するもの、見えないもの、聴こえないもの」とあるように、様々な知覚可能なものとそうでないものの間にある境界線を探求するという意欲作だ。
坂本は、高谷史郎との協働した作品を中心に、美術館や芸術祭などで、次々に革新性の高い実験的なインスタレーションを発表していった。
坂本龍一+高谷史郎《async–immersion tokyo》2024
音楽を空間に立体的に設置する「設置音楽」をコンセプトに、坂本が2017年に発表したアルバム『async』(非同期)の楽曲と高谷の映像とのコラボレーションによるインスタレーションを深化させた「AMBIENT KYOTO 2023」で発表された大型インスタレーションを、東京都現代美術館の展示空間にあわせて再構成した新作。
高谷の映像は、坂本のニューヨークのスタジオにあったピアノや書籍、打楽器など坂本にまつわるものや、『async』の世界観に呼応するような自然の風景などの映像素材をベースに構成されている。
大型LEDウォールに映し出される映像は、画面の右端、もしくは左端から一定方向に徐々に1ピクセルずつ線状に変換される。やがて、時間の経過とともに水平に延びた色のストライプとして堆積し画面を覆うが、高谷の映像は、アルバムの音と同期することがない。
「音と時間」をテーマとして思考する坂本、それに共鳴し協働する高谷の壮大なインスタレーションは「音を視る 時を聴く」を体現。
Carsten Nicolaiとのコラボレーション(協働)
カールステン・ニコライ《PHOSPHENES》音楽:坂本龍一 2024
6000m以上の煙をカールステン自ら撮影した映像作品《PHOSPHENES》は、坂本の最後のアルバム『12』から「20210310」と「20220207」をトラックに用いる。
儚く移ろうカールステンの本映像は、坂本の音楽へのリスペクトを込めて、その音を視せているように映る。
「音の質がとても豊かで、いろんな実験をミックスしていて、普通でない「音」にすごく感性を向けている。」(『美術手帖』2017年5月号)と坂本を評するのは、坂本と数々の共作のあるカールステン・ニコライ。音楽界では「アルヴァ・ノト」としても知られ、坂本とのコラボレーションのアルバムが複数ある。
人間の知覚や自然現象をテーマとして、美術、音楽、自然科学の領域が交差する作品を発表しているカールステンと、実験的で革新性に富んだ坂本が意気投合し、コラボレーションが多いのも頷ける。
Apichatpong Weerasethakul とのコラボレーション(協働)
「おぼろげな感じとか、テーマが幽霊や神話であったり、現実と非現実の間の感じが日本人の意識と近いと思う。・・・ジャングルの音だとか虫の音、タイの田舎の夜の感じが素晴らしいです。」(『美術手帖』2017年5月号)と坂本が絶賛した、タイの映画監督アピチャッポン・ウィーラセタクン。
坂本はアルバム『async』(2017年)を契機に、同アルバムを「立体的に聴かせる」ことを意図し、インスタレーション制作を複数のアーティストに依頼。その一人が、ウィーラセタクンだ。
坂本龍一+アピチャッポン・ウィーラセタクン《async–first light》2017
アピチャッポン・ウィーラセタクン《Durmiente》2021
ウィーラセタクンは、坂本のアルバムから2曲(「Disintegration」と「Life, Life」)を映像用にアレンジした。「坂本の音楽はとても斬新で、自然界にある音に初めて触れるような感覚を覚える」(同)というウィーラセタクン。彼のまどろむように温かみのある映像に、坂本のアレンジした「Disintegration」「Life, Life」の2曲が混じり合う。
本展では、上述のアーティストの他にも、真鍋大度、Zakkubalan、岩井俊雄、中谷芙二子との協働による渾身のサウンド・インスタレーションが展示されている。この協働を通じて、坂本の創作への先駆性、革新性が示されている。
「世界の坂本」として華麗なキャリアを誇る彼は、病室でも小さな音のでる鈴などを近くにおいて、最期まで音にこだわっていた。
アートの本質は「見えないものを可視化し、聞こえないものを可聴化すること」として、真摯な創作活動を続けてきた彼の姿がそこにあった。
サウンドとビジュアルが融合したインスタレーションという新しいスタイルを示した坂本。
坂本の楽曲は、才能あるアーティストたちとコラボレーション(協働)したインスタレーションを通じて新たな側面を見せ続ける。
OVERVIEW
Ryuichi Sakamoto | seeing sound, hearing time
MUSEUM OF CONTEMPORARY ART TOKYO | 2024. 12. 21 – 2025. 3. 30