EXHIBITION “The Secrets of Color from Impressionism to Contemporary Art” 2025.01.15
展示風景 ベルナール・フリズ、ドナルド・ジャッド、桑山忠明 Photo: Ken Kato ※初公開作品 ベルナール・フリズ《Ijo》2020年(右から2番目) © Bernard Frize / ADAGP, Paris, 2024 Courtesy of the artist and Perrotin

“カラーズ 色の秘密にせまる 印象派から現代アートへ”

「カラーズ 色の秘密にせまる 印象派から現代アートへ」が箱根のポーラ美術館で開催。(5月18日まで)
印象派から現代アートに至るまでの美術家たちが獲得してきた「色彩」とその表現に注目し、その役割について考察。色彩論や色を表現する素材との関係にふれながら、色彩の歴史を巡る展示構成となっている。

杉本博司「Opticks」シリーズ Photo: Ken Kato © Hiroshi Sugimoto / Courtesy of Gallery Koyanagi

 本展は、第1部 光と色の実験、第2部 色彩の現在、の2部構成で、杉本博司の「Opticks」シリーズのプロローグからスタート。

 第1部では、ポーラ美術館所蔵のモネ、ルノワール、スーラ、シニャック、ピカソなど、西洋美術史上において主要な近代の画家の作品から、19世紀以降の絵具の革新と色彩論の発達を経てたどり着いた、現代アートの作品へと至る色彩の変遷を巡る。

 APTでは、現代アートにおける「色彩」に的を絞り、その変遷を辿る。

Chromatic Resonances(色彩の共鳴)

展示風景 ケネス・ノーランド、ジョアン・ミッチェル、ゲルハルト・リヒター、アド・ラインハート Photo: Ken Kato

 光によって移ろう色彩表現の可能性を追究した印象派のクロード・モネや、対象から色彩そのものを解放し、画面における色彩の調和を重視したアンリ・マティスらフォーヴの画家たち。彼らの絵画は、戦後アメリカの画家たちに大きな影響を与えた。

 アクリル樹脂の絵具などの開発も相まって、アメリカの抽象表現主義の画家たちは、新しい表現の可能性を求めて、ドリッピング(たらし)やステイニング(染み込み)など、さまざまな技法を生み出していく。

 その結果、抽象表現主義の画家たちは、大きなキャンバスに、画面に中心がない「オールオーバー(均一)」に色や線で表現をする作品制作に勤しんだ。

 タイムレス・ペインティング シリーズとして名高いアド・ラインハートの《抽象絵画》(1958)
(上記写真右の黒一色にみえる作品)も抽象表現主義の代表作のひとつ。カンヴァスなどの支持体を複数の色彩あるいは単色の色彩で覆い尽くすことによって既存の絵画の枠組みを解体しようとする流れへとつながった。

 これらの流れは、その後、Gerhard Richter(ゲルハルト・リヒター)やBernard Frize(ベルナール・フリズ)などの作家たちにも受け継がれていく。

 1990年のリヒター自身による作品《アブストラクト・ペインティング》から生まれた、デジタルプリントによる「ストリップ」シリーズ。それ以前の《アブストラクト・ペインティング》にあった物質感を感じさせない、高度な色彩の抽象性が残る作品だ。

展示風景 ゲルハルト・リヒター photo by Ken Kato

 他方、ベルナール・フリズの作品は、色が編み物のように重りあい、色彩に暖かみが感じられる。彼の作品は、白い下地の効果により、透明感のある鮮やかな輝きを放ち、帯状の流麗な縞模様とともに明るさを放つ。

展示風景 ベルナール・フリズ photo by ART PREVIEW TOKYO

Color and Space(色彩と空間)

展示風景 ドナルド・ジャッド、前田信明、桑山忠明 Photo: Ken Kato ※初公開作品 ドナルド・ジャッド《無題》1987年(左)

 次の展示の作品群は、1960年代のアメリカに登場した「ミニマリズム」。それまでアメリカ美術の中心であった抽象表現主義に対して、ドナルド・ジャッドやダン・フレイヴィンらが中心となり、まったく新しい芸術の在り方を表現した。彼らは、作品が呼び起こす感情やメタファー、人間性を排する表現を目指し、鉄板やアクリル板、蛍光灯という工業資材などの色彩をそのまま作品に使用。

 特に、フレイヴィンは、絵具の代わりに色付きの蛍光灯を用いて色彩の効果を追求。

 物質としての色彩が、いかに空間の中で特殊な視覚的経験をもたらすか。ミニマリストたちの探求と実践は、その後のさまざまな美術の表現へとつながっていく。

展示風景 ドナルド・ジャッド、桑山忠明 photo by ART PREVIEW TOKYO

色彩のいま(現在)

 第2部は、色を表現する素材や色彩構成の研究にいそしむ現代の作家たちの作品群となっている。

色彩のゆらめき Wolfgang Tillmans(ヴォルフガング・ティルマンス)

ヴォルフガング・ティルマンス《フライシュヴィマー 74》2004年、《フライシュヴィマー 112》2007年、《フライシュヴィマー 205》2012年(左より)※初公開作品 Photo: Ken Kato © Wolfgang Tillmans, Courtesy Wako Works of Art

 ティルマンスの「フライシュヴィマー 」シリーズは、カメラも被写体もネガも使わず、暗室の中で光を巧みに操りながら印画紙を露光させてドローイングを行い、流動的なパターンを生み出した写真作品。作品の色調は、カラーフィルターを使った独自のプロセスによって生み出される。

色をかさねる 流麻二果

流麻二果「色の轍/Track of Colors」シリーズ Photo: Ken Kato

 透明であざやかな色彩のレイヤーが重なり合う清澄な絵画が特徴の流麻二果。

 2020年「Re construction再構築」展(練馬区立美術館)において、男性中心の美術史のなかで忘れられてきた女性作家たちに焦点を当て、制作時の感情や試作を追体験しようとする「女性作家の色の跡」に取り組む。さらに「色の跡」は、現代へと続く「色の轍」への展開をみせる。

展示風景 流麻二果《余波》(部分)photo by ART PREVIEW TOKYO

Polychrome(多色性)とPolymorphism(多様性) 門田光雅 

展示風景 門田光雅 Photo: Ken Kato

 アクリル絵具を主な素材をして扱い、アイデンティティの探求をテーマに、鮮烈な色彩と大胆なストロークによって生み出されるダイナミックな抽象絵画を制作する門田光雅の作品群。

『引用』と『反復』という表現主題(メディウム) 川人綾

展示風景 川人綾 Photo: Ken Kato

 「制御とズレ」をテーマに、グリッド・ペインティングによる独自の表現を追求する川人綾。
 錯視効果を狙ったグラデーションの配列を考案、長方形のブロック単位のグリッドに3000色もの膨大な色を配した意欲作だ。

Infinite Color(無限の色彩) 草間彌生 

草間彌生《無限の鏡の間-求道の輝く宇宙の永遠の無限の光》2020年 作家蔵 Photo: Ken Kato ©YAYOI KUSAMA Courtesy of Ota Fine Arts

 部屋の内壁や天井、床に鏡を張り巡らし、床一面にカラフルな水玉模様の突起物を配置した草間彌生「Infinity Mirror Room」。鏡の反復効果により、暗い部屋の中で発光する無数の水玉が宇宙のように広がる。

 シャワーのように降り注ぐColor(色)は、色彩の影響力によって観る者の身体感覚をゆさぶり、暗い部屋の中で鑑賞者は没入感を体感することとなる。

 ポーラ美術館の収蔵品に新たに収蔵した11点の初公開作品を通じて近現代美術における「色彩」の変遷をダイナミックに紹介した本展。作家たちの色彩に向き合う姿勢や色彩を活かした創作の鑑賞を通して、自身のなかにある「色彩」の感応度を発見できる鑑賞体験が楽しめるのではないか。

CONTEMPORARY ART POWER from Tokyo