加藤泉 何者かへの道
加藤泉「ひとがた」の表現の変遷を総覧できる大型個展
国際的に活躍をする現代アーティスト 加藤泉(1969年生まれ、島根県出身)。
国内で過去最大規模の個展「加藤泉 何者かへの道 (IZUMI KATO: ROAD TO SOMEBODY)」が、島根県立石見美術館(島根県益田市)で開催。(2025年7月5日から2025年9月1日)
加藤泉は武蔵野美術大造形学部油絵学科卒業(1992年)後、1990年代末から画家としての活動を始める。
1998年頃から油絵具で「ひとがた」(シンプルな顔や人のかたち)を描き始め、2000年代には木彫の制作も開始。加藤は一貫して「ひとがた」をモチーフに多彩な作品を手がける。
2007年には現代アートの国際展「ヴェネチア・ビエンナーレ」(イタリア)に招聘され、国際的に脚光を浴びる。
本展は、2019年開催の「加藤泉―LIKE A ROLLING SNOWBALL」(ハラ ミュージアム アーク・原美術館)、2022年開催の「加藤泉―寄生するプラモデル」(ワタリウム美術館)以来の個展で、「ひとがた」初期の作品から最新作まで、加藤の作品表現の変遷を総覧できる。
加藤の「ひとがた」は、一見プリミティブに見えるかもしれないが、本展はその完成度の高さと洗練性を強く印象付ける展示となっている。
加藤泉の「ひとがた」について

「ひとがた」はどこから来たのか
人のような胎児のような「ひとがた」。
1990年代末頃、子供が描くようなシンプルな記号的な顔のかたちから始まった。
本展では学生時代の加藤の作品も出展され、初期の作品にも「ひとがた」の萌芽をみることができる。

現在に至るまで一貫して進化を遂げている「ひとがた」。
本展では、加藤の歩みとともに、素材や表現により多様に展開する「ひとがた」の作品群を鑑賞できる。
「ひとがた」はどのように描くのか
「ひとがた」は、どうやって描かれているのか。
加藤は下書きもせず、写真もいっさい見ない。「ひとがた」は油絵具を使用して、手袋をはめた指を用いて描かれる。
背景には何も描かれず、「ひとがた」を浮き上がらせるような、澄んだ深みのある色彩が広がる。

人の「かたち」だと、モチベーションが上がる
加藤は、30歳頃、自分には絵を描くことが向いている、との思いを強めたという。
それ以来、ペインターとして生きる覚悟を決めた加藤が、現在まで一貫して取り組んでいるモチーフが「ひとがた」。
加藤は、どうして人の「かたち」にフォーカスしているのだろうか。
「モチーフが「人のかたち」だと、モチベーションが高くなる。」と語る加藤。
しかし、それだけではなさそうだ。

「ひとがた」の抽象画としての側面
2019年に、加藤は、2007年のヴェネツィア・ビエンナーレのディレクターで加藤を招聘したRobert Storr(ロバート・ストー、米国のアーティスト、評論家、キュレーター)との対談で、次のように語っている。
「基本的に人間を描いているんだけれど、例えば骨があって、肉があって、みたいな、そういう思想がそもそもなくて、僕が絵描きだから彫刻家のように人間の構造にあんまり興味がなくて、色と形とか線とか、そういうものに人間のかたちを使っている感じですね。」
「まあ、人型を使っているだけで、人を描いているけど、どちらかと言ったらアブストラクト(抽象)の面の方が強いかもしれないですね。」
(「加藤泉とストーとの対話」『加藤泉LIKE A ROLLING SNOWBALL―』展、(原美術館、2019年))
「絵は「情報」が複雑になっている平たいもの」でないと意味がないと考える加藤。
(美術手帖2011年9月号「ARTIST INTERVIEW 加藤泉」)

スランプの時期に始めた木彫作品
絵画からはじまった「ひとがた」は、木彫へ、さらにはソフビ(ソフトビニール)、石、布、プラモデル、へと素材を変えて展開をする。
木彫の作品の制作の開始は、絵画制作のスランプに陥った2003年頃。
当時を思い出しながら加藤は語る。
「立体物を作ったら絵も打開できるのではないかと、直観的に思った。」
(本展の内覧会プレス・インタビューでの加藤談)

加藤の木彫は、クスノキを使用し、あらかた削ったものからチェーンソーやノミを使って作る。
大型の作品は組み立て式になっていて、ジョイント(つなぎ目)部分が強調されている。
造形的な意味を問われて、
「深い意味があるというより、造形的に面白いかなと。手とか離れて、ロケットパンチみたいになったら楽しいんじゃないか。」と、加藤は答える。
「自分は彫刻家ではないから、骨格がこうで筋肉ついてこういうバランスで立つとか考えていない。自分に腑に落ちるバランスがある。」とつけ加える。
(本展の内覧会プレス・インタビューでの加藤談)

「絵画は2次元(平面)の中に3次元的な世界を作るが、彫刻は僕たちが生きている現実の世界にあり、3次元に簡単につながる。」
「僕には絵画の存在をあらためて確認する機会になった。」
(加藤泉「WOOD SCULPTURES」『加藤泉―寄生するプラモデル』展、(ワタリウム美術館、2022年))
ソフビへ、石へ、プラモデルへ、「ひとがた」のさらなる展開
ソフビ(ソフトビニール)を使い始めたのは2012年から。
ソフビを使って人がたの型を作成。型を使い、柔らかいソフビを曲げたりねじったり裏返したりして作品を制作。木彫と違い、ソフビは柔軟に形状を変えられる点に面白味がある。

石作品は、2015年から制作を開始。
釣りの最中に足元の石を見て作品にすることを思いついたという。
新型コロナウイルスのパンデミックで展覧会が延期や中止になった2020年から2021年頃に、動物や昆虫などの昔のプラモデルを木彫につける試みをした加藤。

その他にも、Original Plastic Model(石のプラスチック モデル)、Fabric(布)、 Drawings/ Collages(ドローイング/コラージュ)、Prints(版画)と新たな素材に挑んできた。

日々の制作活動のなかで、「どのように展開できるのか」を常に考えているという加藤。
そこには、加藤の素材に対する直観とともに、不断の努力が垣間見える。
絵画、木彫をはじめ、石、布、ソフトビニール、プラモデルと幅広い素材を取り入れて、35年以上にわたり「ひとがた」を表現してきた加藤。
素材や展開をやりつくして見えてきたものがあるようだ。

ペインター加藤として見据える先
「絵はまだまだ行ける。先人の描いている絵のレベルと同じか、その先に。」
(内覧会プレス・インタビューでの加藤談)
内覧会の冒頭で、
「出口のないことを考えながら生きていることは
人間らしいことで、多分何かにつながっている」
と挨拶をした加藤。
ペインターとしてどのような展開がみられるのか。加藤の今後に、目が離せない。(APT)

OVERVIEW
加藤泉 何者かへの道
IZUMI KATO: ROAD TO SOMEBODY
IWAMI ART MUSEUM | 2025.7.5 – 9.1
ARTIST Info
加藤泉
1969年 島根県生まれ 東京都、香港 在住
1992年 武蔵野美術大造形学部油絵学科卒業
主な展覧会
● 2022「加藤泉―寄生するプラモデル」(ワタリウム美術館)
● 2020「IZUMI KATO」 Red Brick Art Museum (Beijing, China)
● 2019-2020「Izumi Kato」 Casa Wabi (Puerto Escondido, Mexico)
● 2019「加藤泉―LIKE A ROLLING SNOWBALL」(ハラ ミュージアム アーク・原美術館)
OVERVIEW | IZUMI KATO