大小島真木「渦き Resonant Wounds」
大小島真木の個展「渦き Resonant Wounds」がANOMALY(東京都、品川区)で開催。(会期は2月14日まで)
2014年に《遺伝子/ Gene》でVOCA奨励賞を受賞し、注目を集めた大小島。
2024年、文化庁の令和5年度新進芸術家海外研修制度で1年間メキシコでの研究活動に従事。
2025年、「国際芸術祭あいち2025-灰と薔薇のあいまに-」(愛知芸術文化センター、愛知陶磁美術館)に2つの作品を出展するほか、並行してKAAT神奈川芸術劇場という劇場空間での個展「あなたの胞衣はどこに埋まっていますか?」での新作インスタレーションに挑戦。
APTでは、現時点での大小島の集大成ともいえる本個展「渦き Resonant Wounds」の魅力に迫る。
「絡まり、もつれ、ほころびながら、いびつに循環していく生命」をテーマに活動
現在、辻陽介とのアートユニットで、「絡まり、もつれ、ほころびながら、いびつに循環していく生命」をテーマに制作活動を行う大小島。
当初より、「生きとし生けるものたちの世界」をテーマに、生命が無限に連鎖する森羅万象を描いていたが、起点となったのは、2022年から23年にかけて行った長野県諏訪地域でのリサーチだった。
「裂け目」から発展する死生観
諏訪地域は、日本列島を縦横に走る「糸魚川-静岡構造線」と「中央構造線」の2つの大きな断層が交差し、諏訪大社、縄文遺跡などが点在。強力な大地のエネルギースポットとして知られる。
大小島は、大地の「裂け目」の他、地域に根ざす「芸能」や「儀式」、「祈り」のあり方に関心を向ける。
「私たちは未だに裂けたプレートの裂け目の上に、生き続けている。そこで育んだアニマを、私はすごく面白いと思う。人間の誕生も「裂ける」ことから始まる。産道を通って生まれた人間も、身体に口や目、鼻など開口部がり、裂けている。日本列島の「裂け目」や人間の「裂け目」、そして私たちの持っているそのアニミズムという感覚、アニマのありよう、生成と分解のありよう、震災も豊かさも含めたありようを、日本列島のアーティストとして世界に発信していきたい。」と語る。
自然や人間の分かつ内と外との境界線は、曖昧で両義性のあるもの。
「綻びは傷である。私たちをつねに疼かせている、塞がることのない傷である。しかし、その傷が私たちを生かしている当のものであるとするなら、その傷はもはや恩寵と見分けがつかない。」
(大小島真木「渦き Resonant Wounds」ANOMALYプレスリリース)
「説明しきれない痛みの中で、それでもなお、この生を祝福したい。」と大小島は語る。

《胞衣》2019-2022
2022年、4人の作家によるグループ展「地つづきの輪郭」(セゾン現代美術館、長野県軽井沢町)で展示された《胞衣》2019-2022は、自然に呼応して「森=身体」という発想のもと制作された。
「えな」と読む。
「胞衣(えな)」とは、母体から排出された胎盤、臍帯、卵膜のこと。

約12mにおよぶ絵画作品《胞衣》。
死によって分解されていく身体から生成してゆくものたちのイメージの《胞衣》。
作品の一番左に生き物たちが渦巻いていて、そこから発芽するように大きな木が伸びている。その木の先端の幼児ともとれる人物の頭部や手、森に生息する動物や昆虫などが描かれている。
文化人類学に関心を持っていた大小島は、自身が出産する前から「胞衣(えな)」という言葉に関心を抱いていた。
「いろいろな生き物が生きて死に、生成と分解が繰り返して行われる超有機的な「森」としての「胞衣」(胎盤/子宮)を、森の中の美術館(セゾン現代美術館)の中で表現したいと思った。」と説明する大小島。
「太古にまで戻った時も含めて「森」という存在を思った時に、それは「森」という言葉だけに留まらない、いろいろな生き物たちの生と死の場としての「地球」であるという考えに至った。」
2025「国際芸術祭あいち2025-灰と薔薇のあいまに-」
昨年秋に開催された「国際芸術祭あいち 2025」(愛知芸術文化センター、愛知陶磁美術館)に出展した2作品は、
季節を生き、互いに食べる/食べられるものとして関係を織りなす生命体の交響を描く《明日の収穫》と
メキシコでの出産経験を踏まえて土と生命、環境と種間関係を再考する《土のアゴラ》。
両作品とも、悠遠のなかで生成と分解を繰り返す「いびつに循環していく生命」を表現している。

2025「あなたの胞衣はどこに埋まっていますか?」
続く、KAAT神奈川芸術劇場での展覧会「あなたの胞衣はどこに埋まっていますか?」では、死者を送る儀式を通じて「祈り」のかたちをインスタレーションで表現した。

2024年に一年間メキシコに滞在し、かの地の歴史風土や文化をリサーチした大小島。
メキシコを代表する祝祭である「死者の日」に象徴されるメキシコの死生観にふれる。
それは、是か非かという二項対立には収まりきらない生の複雑さを体現。
大小島は
「痛みの克服へと向かうのではなく、痛みを抱きしめるようにして生きていく、祈りとしての生のありようである。」と語る。(大小島真木「渦き Resonant Wounds」ANOMALYプレスリリース)
劇場内を「胞衣」(胎盤/子宮)に見立て、荘厳なる「祈り」の空間を創出する。
2026 大小島の個展「渦き Resonant Wounds」ANOMALY
大小島のANOMALYギャラリーでは初めての個展。
タイトル「渦き Resonant Wounds」の「渦き(うずき)」は、大小島による造語。
「それは私たちの生が抱えもつ痛みや脆さの源となる傷(疼き)が、互いに触れ合い、絡まり、響き合いながら渦巻き、世界を形づくっていくさまを指す。本来、私たちは孤立した個体ではなく、大地の裂け目、身体の開孔部、言葉の切断線、他者との接触痕――そうした裂け目=傷を通じて生かされている存在。その疼きは、痛みであると同時に、私たちが万物と共にここで「渦いている」ことの証でもある。」
(大小島真木「渦き Resonant Wounds」ANOMALYプレスリリース)


陶器でできた幼児らしき頭部のてっぺんに穴があき、そこから枝が伸びている作品《Fontanel》シリーズから、
テーマ「渦き」の世界観を感じることができる。
「出産とは、まさに身体の裂け目から新しい命を生成する営み」だと実感したという大小島。
そこから着想を得て、哺乳類の乳幼児の頭蓋に開く「大泉門」を、日本列島が跨っている複数の大陸プレートの「裂け目」に重ね合わせ、「根源的不能性」の象徴として表現する。
(大小島は、「地震や噴火などの自然の圧倒的な力を前に、人間の力は及ばないと達観して、あがらわないこと」を「根源的不能性」という。)
太古から続く地球の自然界の生と死の循環のサイクルを、大きなスケールで表現する大小島の作品群。
本年3月から再度メキシコでの滞在(公益財団法人ポーラ美術振興財団在外研修、公益財団法人小笠原敏晶記念財団助成)を予定。
メキシコでの研修の他にも、これまでにインド・ポーランド・中国・フランスなどに滞在し、リサーチ型の制作を行ってきている大小島。
二度目のメキシコ滞在後の大小島の制作活動に期待したい。(APT text by MK)


OVERVIEW
Maki OHKOJIMA “Resonant Wounds”
ANOMALY| 2026.1.17 – 2.14
ARTIST Info.
Maki OHKOJIMA
大小島真木 1987年東京生まれ、2011年 女子美術大学大学院美術専攻修士課程修了
辻陽介 1983年東京都生まれ、早稲田大学政治経済学部中退、『DOZiNE』編集人
主な展覧会
●「あなたの胞衣はどこに埋まっていますか?」KAAT神奈川芸術劇場(神奈川県横浜市、2025年)
●「この惑星のへその上で」Fundación Sebastian A. C.(Mexico, Mexico City, 2025年)