ARTIST EXHIBITION Shunsuke Imai ”Singular Pluralities” 2025.12.04
今井俊介 “Singular Pluralities“ 展覧会風景 photo by Yuki Akaba

鮮やかな色調のストライプ、旗や波のようにも見える絵画を手がける今井俊介の個展「Singular Pluralities」がHAGIWARA PROJECTS(東京都江東区)で開催。(会期は2025年12月6日まで)

2014年に第8回shiseido art egg賞を受賞。数々の展覧会を経て、着実にキャリアを積み重ねてきた今井。
2022年には美術館での初個展「スカートと風景」の開催(丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(香川県、丸亀市)、2023年には東京オペラシティ アートギャラリー(東京都、新宿区)に巡回)に至り、話題を呼んだ。

今井俊介氏 “Singular Pluralities“ 展覧会場にてphoto by APT
今井俊介氏 “Singular Pluralities“ 展覧会場にてphoto by APT

平面なのに奥行きや躍動感が感じられ、空間が生まれる画面。
一度みたら忘れられない、ポップでヴィヴィッドな色調のストライプやドット。
観るものの視覚を刺激する今井の洗練された絵画は、一体どのように創作されるのか。

今井への取材からみえてきたのは、「制度化」されたユニークな絵画の制作方法。
今井の考案した絵画制作のシステム、そして今井が目指す先とは。

今井俊介「スカートと⾵景」東京オペラシティアートギャラリー 展覧会風景 photo by Kei Okano
今井俊介「スカートと⾵景」東京オペラシティアートギャラリー 展覧会風景 photo by Kei Okano

今井俊介のユニークなアプローチは、たなびく布のイメージを絵画に取りいれたこと。
同じ図柄を基に複数の絵画や異なる形式の作品を展開する点も、今井独自のアプローチだ。

はじまりは、スカート
大学で助手をしていた2011年頃、学生が履いているスカートの柄とゆったりとしたドレープが目に入ってきた。
「こんなにきれいなものがあるなら、これを描けばいいんじゃないか」と思った今井。

面白いと思って何枚か描くうちに、平面に奥行きが生まれるのが一番わかりやすい形は何だろうか、を考えるなかで、たどり着いたのがストライプだった。歪みが分かりやすいところが特徴だ。

それ以降、日常の中にある色や形から着想を得て、それを絵画へと変換している。

システム化されたプロセス
今井のユニークな絵画の背後には、独自の制作アプローチがある。
まず、パソコンでストライプをランダムに配置したデータを作成し、紙にプリントする。
次に、プリントされた紙を、自然にたわませる。そして、たわませたり、歪ませた紙を写真で撮影する。

その写真の、ある箇所をトリミング(切り取り)して、そのままキャンバスに映し出し、手作業でアクリル絵の具を塗っていく。(注:今井は描くではなく、(絵の具を)塗ると表現する)

今井の制作でユニークな点は、(写真を)切り取った時点で、そこにあるものを全部受け入れて描くということ。
バランスが悪いとか、ここはいらないという、自分の判断を下さず、全て受け入れて制作。

ストライプを手っ取り早く描くうえで有効なマスキングテープなどは使用しない。
手で描いて、まっすぐ線が描けなかったとしても受け入れる、というのが今井のルールだ。

今井俊介《untitled》制作風景 部分photo by APT
今井俊介《untitled》制作風景 部分 photo by APT

“どこを切り取ろうかな”
「どこを切り取ろうかなと考えているときが、僕には描いている感覚がすごくある。」と語る今井。
「ああなるほど、そこは逆転しているのが結構あるなとか。」

今井は続けて説明する。
「たまたま、その箇所を、僕は見て切り取っただけ。
この切り取り方こそが絵画だから、この絵の一枚のバランスが良かろうが、悪かろうが、どうでもよく、そこは描く。僕は世界をこう見てしまったから、それを忠実に描くしかない。」

いろんなレイヤーを重ねて色を変えているが、キャンバスに塗り終わったら、そこで終了(完成)。

学生時代に絵をどこで終わらせればいいかの判断に課題を感じた経験を経て、絵画を描くために確立した今井のルール。

想像と違って、全然面白くない作品になってしまったり、ということもあるらしい。
だが、案外、作家本人も面白がって制作を進めているようだ。

今井俊介《untitled》2025 部分photo by APT
今井俊介《untitled》2025 部分 photo by APT

色ではなく光
ネオンのような鮮やかな蛍光ピンクやイエロー。その色調は、今井の絵画ならではと思わせる。
そんな色調について、何かルールがあるのだろうか。

今井は「絵の具は色というより、光であってほしい」と語る。
学生時代に川村記念美術館のBarnett Newman(バーネット・ニューマン)の赤色の作品《アンナの光》を見て、色に飲み込まれるような気持ちになった。

15年くらい前、ユニクロの蛍光色のフリースが天井まで積んであるディスプレイを見たときに、《アンナの光》と同じ感じがした。「こういう感覚の絵ができたらいいよな」と。

丸亀市猪熊弦一郎現代美術館で「スカートと風景」展(2022年)のキュレーションを担当した竹崎瑞季は、今井の表現に関して
「現代社会に渦巻く視覚情報の巨大なエネルギーを、色彩で抽象化した表現であるとも言える。」
と評している。(竹崎瑞季「今井俊介《untitled》―揺れる絵画の10年」『スカートと風景』2022)

今井俊介《untitled》2025 部分photo by APT
今井俊介《untitled》2025 部分 photo by APT

偶然の面白さ
「この色とこの色を組み合わせようと、柄を作っている時点ではある程度決めている。しかし、それがどう歪むのか、制作途中でははっきり分からない。」と語る今井。

ストライプを作る、パターンを並べていくこと、レイヤー構造がある。波打たせて絵にしたことで、手前に出てくる形もあれば、奥に行ってしまう形もある。

「ある程度のレイヤーは認知できるけれど、手前なのかなと思っていたものが、視点が少しずれるだけで実は奥だった、ということがおきる。」

今井の制作スタイルは、
「具象と抽象を行き交いながら洗練していく制作過程に、選択と偶然を加味させ、無限に制作できる描画システムを独自に構築してきた。」(影山幸一「今井俊介《untitled》──リアリティーがストライプになるとき「森啓輔」」)
といえよう。

今井俊介 “Singular Pluralities“ 展覧会風景 photo by Yuki Akaba
今井俊介 “Singular Pluralities“ 展覧会風景 photo by Yuki Akaba

新しい抽象画を目指して
今井が絵画で志向するのは、
「現代絵画、抽象画をどう更新していけるのか。」
「形式的な絵画を引き受けつつも、ある部分では批判的に発展させることで新しい絵画を制作できないか」と語る。

デジタルイメージや独自に編み出した制度化という手法を駆使して、今井は、抽象絵画を現代的な解釈で進化させようと模索する。

竹崎(丸亀市猪熊弦一郎現代美術館)は、
「その絵画のシステムの革新性は、単発の発見ではなく一定の期間、今井の場合は少なくともこの10年、描くものと方法を変えずに制作したからこそ力を帯びたものとなる。」と評したうえで、
「絵画史における色と形の実験を参照し、その積み重ねの上に、現代社会に生きる自らの感性を共鳴させながら、軸をぶらさずしなやかに更新していく今井の態度には、創造の核心が隠されている。」(同)と期待を込める。

「アートで変革を起こせそうな気がする。やっぱり僕は絵画をもっと信じたい。」
だから「こんな古典的なメディアで、古典的な描き方で、勝負している」という今井。

引いたり寄ったり、絵を見る立ち位置によって、見え方が変わる今井の絵画。
今井にとっては、彼の絵画は、絵柄こそ違えども、全部同じ感覚だという。
今井は、「世界がどう見えるか、どういう立ち位置で世界に対峙しているのか」という自己認識のような部分があると語る。

ハードエッジな抽象画家として、アートの新たな可能性を切り開いて欲しい。(text by MK APT

今井俊介「スカートと⾵景」東京オペラシティアートギャラリー 展覧会風景 photo by Kei Okano
今井俊介「スカートと⾵景」東京オペラシティアートギャラリー 展覧会風景 photo by Kei Okano

ARTIST Info
Shunsuke IMAI
今井俊介
1978年、福井県生まれ、東京都在住。武蔵野美術大学大学院造形研究科美術専攻油絵コース修了
主な展覧会
●「スカートと⾵景」東京オペラシティアートギャラリー(東京都、2023年)、「スカートと⾵景」丸⻲市猪熊弦⼀郎現代美術館(香川県、2022年)
●「range finder」Kunstverein Grafschaft Bentheim(Neuenhaus、ドイツ、2019年)
●「第8回 shiseido art egg 今井俊介 “range finder”」資生堂ギャラリー(東京都、2014年)

OVERVIEW | Sunsuke IMAI Instagram
| Shunsuke Imai “Singular Pluralities“ | HAGIWARA PROJECTS | 2025.11.5 – 12.6

CONTEMPORARY ART POWER from Tokyo

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